第80回 ドッグファーストは試練の場
最近は、車いすユーザー用のバリアフリーと明記するホテルも、ワンコと一緒に泊まれるホテルもある。
が、ドッグカートを支えに、やっとこさ体を移動させる歩行困難者が、ワンコと過ごすことを設定にした部屋は、どこのホテルにもない。私も含めた誰もが想像していないからだ。だから、自分で体験するしかない。
ワンコとの旅は、ワンコと飼い主の躾(学び)の機会でもある。毎回クリアする目標をひとつ決めていく。今回はドッグファーストがうたわれているお宿。浴場以外なら館内いつでもどこでもワンコと一緒にいられるのが売り。
確かに専用ドッグランもあり、日頃飼い主とべったり一緒にいられないお利口なワンコなら喜びそうだ。大型犬もオッケーだ。
でも、いつも私と家の中にいるチビワンコは、ドッグランでもお部屋でもゴロゴロしよる。ドッグファーストと言われてもピンとこないらしい。
せっかくだから、ドッグカートで館内をご観覧。ハロウィンの飾りの前で一枚写真を撮る。他にもひな壇や小さなお姫様風部屋のセットがある。まるでワンコの写真館みたいだと興奮するのは飼い主だけ。当然ではあるが、こやつは写真に収まる気など全くない。
旅の時間は速く過ぎる。ホテル前の芝を少し歩き、荷をほどくと、もう夕飯だ。
いつもなら、用もたし部屋の探検も済み、落ち着いているワンコはここでステイ。私だけが、空のドッグカートを押しての移動となる。スーパーではカートに、家では歩行器に、ホテルではドッグカートに両手を添えてのノロノロ歩行。しっかーし、今回はドッグファースト。チビワンコもカートに入れてレストランへ。ちなみに家で飼い主が食事時には、ワンコはゲージに入ってもらう。が、腰をかがめてゲージを開け閉めする動作もきつくなりつつある。これから互いの老後を思うと、ワンコをもう少し利口にし、ゲージinは非常時だけにしたい。
さてさて試験の時だ。次々と運ばれる料理に舌鼓をうつ飼い主の横でワンコたちは、伏せている。じっと座っている。遠めに見える隣のワンコは、自分用に設えた料理にさえ口を付けない。「あらら、緊張しているのかしら。お部屋でゆっり頂こうね」まるで絵画から出てきたような夫人と犬。うちのチビワンコは自分のお皿もないのに、ハフハフとカートから出ようと必死に2足立ち。「あんた、ご飯済んでるぅ」あわてて押し込めるとカートの網越しに恨めしい視線を向け続ける。
おそらく犬は、飼い主がそのワンコにどこまで何を求めるかで、確実に変化する生き物なのだ。お利口なワンコたちを目の前に私は学ぶ。
「来年は一緒にテーブルを囲もうな。他のコができて、あんたにできないはずはないもんな」あれっ?このセリフ私が幼い頃、母から聞いたような。どう見たって他の子と違う脳性麻痺児の私を、健常児の中に放り込んだ母の覚悟と思いと愛は、60歳過ぎた今だからわかる。
おばあちゃんにお土産を買っていこうな。琵琶湖をバックにハイッチーズ。
翌日から我が家でも夕食はワンコとテーブルを囲む。毎日が練習と経験なのだ。(ただし、飼い主未熟ゆえ、メニューにより個食)