第65回 断捨離もぼちぼちと

断捨離とは「断る行」「捨てる行」「離れる行」3つの行だそうだ。「断捨離」の必要性と同時に、どの行も難しいと最近、痛感する。

なんでも口にする子犬との暮らしを始めた3年前には、我が家の床に物はなかった。
それでも、少しでも目を離すと子犬はいろいろなことをしでかした。お風呂場に行き、シャンプーを舐めて泡を拭いたり、お仏壇の物に手を出したり、トイレやベランダに姿を隠したり。一番青ざめたのは押し入れからジャンプしようとした瞬間。マットに上がるのがやっとの子犬が、どうやってその高さまで登った?
「いろいろなタイミングであがってしもたけど…」
手足をぶるぶると振るわせて決死のワンコの表情は、幼い息子がジャングルジムから降りれなかった時の顔を思い出させた。「あんたも、兄ちゃんといっしょやな。あかんがな」とワンコを抱きしめた。あの時、息子も抱きしめたんだろうか (・・? 思いだせない。32年前のことだもの…。記憶にあるのは「どうやら、この子は天才ではないらしい」とっさに親心が働き、翌日学資保険に入ったことだ(笑)これは正解だった。

ワンコの成長は著しく、今は自分のジャンプ力の限界も知り、食べ物以外口にすることもなくなった。「ほれほれ、困るやろー。おやつと交換したるわ」と時々、挑発顔で私の靴下や洗濯ばさみをくわえるぐらい。片付けないとね。要らないものも捨てないと…。暑い夏 (・・? が続いているし、ダニなんて湧いたら大変だもの。ちなみに、どんなに綺麗なお宅にも家ダニは潜んでいるらしい。数の問題なんだそうだ。

半年間眠っている冬用カーペットと、昨日まで使っていたシミだらけの夏敷物を大型ごみに出す。封を開けただけで放置状態の毛布も、ダニの住処?。宿泊客なんて誰も来なかったし。えええーい断捨離だ。あれもこれもと調子づいて、ぽぽいのポイッ。

きれいさっぱり片付いた部屋を眺めて、高揚感に浸る。が、しばらくすると、空虚感が沸き立つ。結局何がいるの? 私の人生で必要なものって何 (・・?

あたいやん!ふいにワンコが飛びついてくる。「おかんは寂しいねんやろ」といわんばかりに顔をペロペロする。
そういえばワンコに「断捨離」の行は無用である。誰もお断りせず、頂いたものは捨てず、飼い主から離れようとせず、生きている。その姿は「他力本願」の力のみを信じる仏の教えを思いださせる。人間はなかなか、こうはいかない。

これだけは置いとこか
息子にもらった20年前のぬいぐるみを今年も洗濯機にかける。

最期には手に入れたものも捨てて、この世を離れるわけだから、そんなに「断捨離」にエネルギーを使うこともなかろう。

でも、これからは、人も物も極力引き入れず、つかず離れずぼちぼちと生きていこー。捨てられないものもあるわさー。離れらない思いもしゃーない。これもまた人たる所以。

 

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福本千夏の本

障害マストゴーオン!
イースト・プレス

結婚、子育てと平凡で幸せに暮らしていたが、夫が癌になり死別する。絶望の中、主婦業を捨て就職するが・・・。
息子をはじめ、たくさんの人たちに支えられ、葛藤し、見つけた希望は・・・!?
脳性まひ者・福本千夏が挑む、革命的エッセイ! 

『千夏ちゃんが行く』
飛鳥新社

福本千夏さんの初めての本。
処女作とは思えないクオリティに編集さんが驚いたとか。
泣いて、笑って、恋をして。
一途、前向きに突っ走る!
清冽な生き方が胸を打つ、なにわのオカン、再生の物語。


 

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