第55回 冬との遭遇

カメムシの「亀子」に留守を託し、年に一度のワンコ連れ一泊。
帰ると夏から冬になっていた。まるで、沖縄から北海道に瞬間移動した感じだ。
すぐに毛布、ストーブを出し、衣替え。スーパーマンのような助っ人さんに感謝だ。
でも、私の体は一日で変わった季節についていけなかった。あーあー。鼻水ぐずぐずの風邪?。散歩にも出たいとも言わず、むしろ自分から少し距離を置くワンコ。
くしゃみのたびに後ろに下がり別の部屋にいる。今宵はそこでお眠りください。とリビングの戸を静かに閉める。が、それは飼い主と思いが違うらしい。どんなに、くしゃみや咳がうるさくても同室で寝たがる。
思えば、ワンコを迎えてから、こんなに激しい風邪は初めてだ。

障害者が動物を飼う問題は、みなさんの協力や愛や理解のもと、今のところ表立って出ていない。
が、動物を飼う時に飼い主が病気になったらどうするか問題が出てきた。
いまさらではあるが、自分の想像力のなさに呆れる。
そういえば、犬を飼いはじめた頃、犬を飼う先輩にくぎを刺された。
「僕は障害者やから犬を飼うなとも飼ったらいいとも思わない。ただ犬を飼ってみたらこうなった的な感覚や、ブランドバッグを買うみたいに犬を求めるのはやめてな」ギクッ(@_@。学生時代を知るこの人には私のミーハー度も知られている。
「ちなっちゃん。人と同じく犬にも生きる権利があるねんで。命は投げ出されへんのやで。あっそれと自分が病気になった時のことを考えてな。僕も単身やからしんどい時もあった。単身でワンコの命を抱えるってかなりきついよ」
ゆっくり諭すような声がよみがえる。

確かにこうなったらきつい。体も次第に重くなりうっ動けぬ―。電車に乗りかかりつけ医に行くのも厳しい。どないしょー。
この日のヘルパーさんはそんな私の扱い方をよく知る。彼女には数年前のインフルエンザの時もお世話になった。彼女はいつも優しく、加えて冷静だ。三言ぐらい告げると「今回は家から一番近い病院に、まずは正しい診断をしてもらいましょう」家の目の前のクリニックに電話をかけてくれる。15分後に裏門から入り、コロナ・インフル陰性で、咳止めの処方箋と共に表門から数歩で帰宅。はやっ。
「ひょっとして…あーなったら・こうだったら」と不安がる隙を与えず、一緒にいて一つずつ問題を解決してくれる彼女と出会って18年になる。
私もワンコにとってこんな存在になりたいなー。「あのさー。あんたは私がちょっと吐いただけでうろたえるやん。ちょっと右足ひきずったら真っ青になってるやん。あんな人間力のある大きな器を目指すのは無理無理」と言わんばかりにワンコは首をぶるぶると降る。
「まあ、彼女とのご縁がこれからも続くことを祈るわ。あっほかの方ともなかよーしいや。私を見習えー」と飼い主を諭して、お小屋に入っていく。
「あんたひとりでは乗り切れぬ冬だぜぃ」としっぽを振りながら…。

 

第54回『未知との遭遇』(2023年12月20日)
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第42回『ルッキズム イズ マネー (・・? 前編』
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第37回『赤いワンピース』
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第34回『風が吹けば桶屋が儲かる』
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第32回『わがまま婆さんと意地悪おばさん 前編』
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第31回『募金活動のなぞ その2』
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2021年

第28回『募金活動のなぞ その1』(2021年12月6日)
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(2021年11月18日)
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第25回 働き方改革って?(2021年10月15日)
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第23回 私、めっちゃ欲張りでして…(2021年8月27日) 
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第21回 働くご縁がございました。(2021年7月26日)
第20回 働かない人生からの…(2021年7月8日)
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第18回 専業主婦というお仕事 その3 こうして母になりました
(2021年5月31日)
第17回 専業主婦というお仕事 その2 こうして福本千夏になりました
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第16回 専業主婦というお仕事 その1 永久就職ではない
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第15回 ロミオとジュリエット(2021年4月13日)
第14回 乙女の経験8 ○○家を継ぐ子を産んでくれさえすれば
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第13回 乙女の経験7 そこに愛はあるんかぃ?(2021年3月11日)
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第8回 乙女の経験2 カイロと痴漢(2021年1月5日)
第7回 ファーストキスもラストキスもご用心あれ(2020年11月30日)
第6回 母と暮らせば その3(2020年11月16日
第5回 母と暮せば その2(2020年11月2日)
第4回 母と暮せば(2020年10月15日)
第3回 悲しみごとも よろこび事(2020年10月1日)
第2回 この夏は(2020年9月14日)
第1回 初めまして(2020年8月28日)

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福本千夏の本

障害マストゴーオン!
イースト・プレス

結婚、子育てと平凡で幸せに暮らしていたが、夫が癌になり死別する。絶望の中、主婦業を捨て就職するが・・・。
息子をはじめ、たくさんの人たちに支えられ、葛藤し、見つけた希望は・・・!?
脳性まひ者・福本千夏が挑む、革命的エッセイ! 

『千夏ちゃんが行く』
飛鳥新社

福本千夏さんの初めての本。
処女作とは思えないクオリティに編集さんが驚いたとか。
泣いて、笑って、恋をして。
一途、前向きに突っ走る!
清冽な生き方が胸を打つ、なにわのオカン、再生の物語。


 

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