第24回 台所論争

三人寄れば文殊の知恵というが、女が3人以上寄れば、知恵もあふれかえる。
特に台所仕事なんて、コップやシンクの洗い方、ごみの分別や処理などなど、10人いれば10通り。それが知恵の交換になる時もあるが、いつもそうとは限らない。
専業主婦を四半世紀名乗り、世の中の出来事は夫と息子の声とテレビから知る生活。会社の給湯室での風景もドラマの中でしか見たことがない。女の腹のうち。意地・誇り・笑顔の下の嫉妬や貫きたい思い。そんなものが実際に存在することすら知らなかった。
私は、50歳で職場を得るまで「よそ様」を意識することがなかったのだ。小さい頃から人と比べても仕方がない体を認識していたからのか?マイペースな性格なのか?自分を生きるのが必至なのか?
それは還暦前の今も同じで、人のことはあまり気にならない。

が、職場はこの「よそ様」の集合体。そりゃーややこしくて当然だわさ。そして、それはどこに行ってもおんなじ。
だーれだ。「コップの洗い方が争いの原因なら紙コップにすれば」なんて言った人。違うんですって。女たちは争うんです。
古くは「御台所」で、ほら、今でも「台所事情」という言葉は、会社の財政状況の意でしょ。

加えて、働き出して知ったことは「女」は女を観ていること。服装・髪型から小物に至るものまで…。
わたしゃ、昨日着た服も忘れて、自分の臭覚でチェック。髪の毛も解かず、とりあえず出勤時間に間に合うように電車に乗れればよしっ!の7年だったけど。

台所でも(あはは)そうじゃないとこでも、いろいろあって退職。で、その翌年頃から、コロナ禍に入った。
なんだか、今となっては、職場での小さな台所論争が、遠い昔の出来事に感じちゃう。
「布ぶきん」か「使い捨て紙布巾」か。「まぜるな危険」と書かれた液体を使うかどうか。コップの伏せ方。ふきんの干し方。それは、思えば「エコ」やら「節約」という言葉が人々の心にまだあった頃の話。

「令和」は「ソーシャルディスタンス」と「除菌」が人々の共通認識だ。朝から使い捨てのオンパレード。水をジャージャー流して手を洗い、紙タオルで拭く。すぐ唾液でぼとぼとになる「不織布マスク」をつけ、除菌シートで掃除。これもしゃーないんだけど、皆が距離を保ち、同じ方向を向き、同じものを大量に消費する時代。文字にすると少し空恐ろしさを感じる。私だけかな?

退職に後悔はない。が、今はすることがない台所論争が妙に懐かしい。会社の台所を制することが、その会社で居心地よくいられる?なんていう考えも私には全くなかった。でも、もう少しだけ話しときゃよかったかな。
言葉を発するには、ものすごくエネルギーが要る私。だから話すことを求められない今も今で、まっいいんだけどね。

 



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福本千夏の本

障害マストゴーオン!
イースト・プレス

結婚、子育てと平凡で幸せに暮らしていたが、夫が癌になり死別する。絶望の中、主婦業を捨て就職するが・・・。
息子をはじめ、たくさんの人たちに支えられ、葛藤し、見つけた希望は・・・!?
脳性まひ者・福本千夏が挑む、革命的エッセイ! 

『千夏ちゃんが行く』
飛鳥新社

福本千夏さんの初めての本。
処女作とは思えないクオリティに編集さんが驚いたとか。
泣いて、笑って、恋をして。
一途、前向きに突っ走る!
清冽な生き方が胸を打つ、なにわのオカン、再生の物語。


 

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