第75回 夏の香り
コロナやインフルが表舞台に出ていない初夏、久しぶりに大きなデパートに足を運んだ。
まずは、再就職したお嫁ちゃんにプレゼント選び。きらきら女子がもっとも目を輝かせそうなコスメとハイブランドの階に降り立つ。化粧にもブランド品にも興味なく生きてきた私。姑にならなかったら、一生目にも手にもしないであろうものばかり。画像から飛び出たような人らが行きかう、華やかなライトと香り立つ化粧品のこの階は、やはり苦手だ。
息子が手数をかけているはずなので、リサーチしたお嫁ちゃん好みのハンドクリームだけを求め、早々に退散。
人工的につけられた香りは、どれもあまり好きにはなれない。
が、人からの自然発生的な匂いも、最近つらい。若い時には、みんな汗臭かったから感じなかったからか、体臭も色恋のスパイスという動物的元気があったからか気にならなかったんだけど。
「暑い夏、お互い様」といきたいところではあるが、汗のにおいと柔軟剤が混ざり合ったTシャツを身に着けた方との身体接触はなるべくなら避けたいと今夏は思ってしまう。車いすを押してもらっていてなんであるが・・・むせかえる。体のあちこちが無理も我慢もきかなくなった。
「どうされました」とのヘルパーさんの問いに俯く。きちんと告げたいと思うのだが、なまじ介護職が長い彼女にどう切り出せばいいのだろうか。女同士なので、余計に気を遣うお話。
私がもう想像もできない施設内介護の空気を彼女は最近まで吸っていた。香りにも人間にも敏感であっては勤まらない職場。むしろ鈍感になることを求められたはずだ。言葉尻やマウントをとる癖もありそうだと、最初の面談で薄々感じた。が、日曜日に動けるヘルパーさんとの出会いは少ない。現状を考え見切り発車した。でも、ここまで意を決して異を唱えることが出てくるなんて思わなかった。しばらくは、屈せず論じて、折り合いをつけてやっていくしかない。この手のヘルパーさんに、うまく働いていただけないうちは、私も青二才である。
相手を黙ってきちんと気遣える人は、学んでいる。努力もしている。
人間の五感 (視覚 聴覚 味覚 嗅覚 触覚)の中で、いち早く脳からダイレクトに働くのが嗅覚で、一番記憶に残るのも匂いなんだそう。このことを知るリハビリ師・鍼灸師・介護士は真夏でも無臭だ。おそらく、一日に何度もシャワーを浴び、タオルと着替えを持ち歩くなど、隠れた努力をしていると思う。
「福本さんも気をつけてくださいよ」付き合いが長いマッサージ師に言われ
「えっ?」手を挙げて脇を嗅ぐ
「まあ、そこもですけど」
含み笑いの彼に「なに、ほかにもある(・・?)」
自分のお尻を軽く払いながら「ここもですよー」と言われ、「あっ」と大きく口を開ける。
前回の治療中のアクシデントね。お腹を押されればこらえ切れない時もある。でもの腫れ物所かまわず。でも、親しき仲にも礼儀あり。
「ご め ん」
「令和ではおならもスメルハラスメントなんて言われますからね」