第51回 61歳からの手習い

60歳からの手習いにと、水彩画のお道具を買った。が、61歳になっても納戸に入ったままである。雨の日、知人に付き添い頂いて、初めて画材専門店に入った感動だけはまだ心にある。
物静かな店員さんの顔も覚えている。ご親切に鉛筆まで削ってくれた。
なのに、スケッチブックのビニールを剥がしただけだ。
青い空に浮かぶ雲。風に揺れる木々。そんな日常の何の変わりない景色に幸せを感じて、
高校時代、少し褒められた水彩画を始めようと思った。だけである。
若い頃、油絵も少し体験したが、絵の具を重ねて完成させていくことが私には難しかった。
書き進めるうちに自分のイメージがどんなものだったか忘れる。結果「なんじゃこりゃー」というものが目の前に現れる。加えて作品?の大きなキャンパスはお持ち帰りというシステム。
自宅で「千夏展」などと一緒に面白がってくれる人ももういないわけだし。
陶芸もしかりだ。
重たい大きな文鎮のような「形がない茶碗」をゴミに出す元気などもうない。
そのてん、水彩画は副産物が紙一枚。自分で処理できる。と、思い立ったのが夏前。
で、夏の照り返す日差しの中、スケッチはできぬ。と、いいわけー。3日坊主にもならないでいる。

結局、今は夏休みの宿題のようにバッハを弾く毎日。夏前。これまた初めてクラッシックオルガンなるもの(パイプオルガンを電子化したもの)に触れた。エレクトーンに少し触れていた時期があるのでこれは楽勝だと思いきや、そうではなかった。
まず、オルガンを前に、背もたれがない椅子に座るのがひと苦労。加えてベース部分の足ペダルに触れないように、両足は、あげるかどこかにちょこっと引っ掛けておく。体幹に力が入らない体には曲芸を強いられている感じだ。
譜読みも全くできない。4分音符と8分音符だけやのに、どないしてん私。「くっくやしいー」と、そのまま月2回、電車を乗り継いでお稽古通い。お稽古カバンと私を車いすで運んでくれる協力者がいるからこそ続いている。
いつものワンコと散歩ルックとは違うこぎれいな服に身を包み、大きなオルガンの前に座る。
重厚感ある音に全身が震える。私は声がうまく出せないから、カラオケには行かない。だけど、発語に労力を払わない者が、カラオケで大きな声で歌う。これを快感に思うのときっと同じだ。

それにしても、バッハは偉大だ。誰がどんなふうに弾こうとも怒っては来ない。信仰心のかけらもない私が「主よ…」「何とかのマリア」も弾きたいと思ってもバチは当たらない。
だいたいパイプオルガン=バッハということも知らずに始めた ( ´∀` )てへへ。
譜読みは昔から苦手だったが、今は YouTube 動画がサブティーチャー。ゆっくりテンポで何度も再生、楽譜も指さしてくれる。
エンジョイ。レッツプレイだ。
で、趣味が高じ、防音部屋にしてクラシックオルガンをご購入なーんてね。おいおい、61歳からの手習いも、ものすごい副産物やん(@_@)やめときや。
おもちゃ屋で買ったキーボードの台を Amazon でポチるぐらいにしとかんと。


食卓上のピンクキーボード


 

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福本千夏の本

障害マストゴーオン!
イースト・プレス

結婚、子育てと平凡で幸せに暮らしていたが、夫が癌になり死別する。絶望の中、主婦業を捨て就職するが・・・。
息子をはじめ、たくさんの人たちに支えられ、葛藤し、見つけた希望は・・・!?
脳性まひ者・福本千夏が挑む、革命的エッセイ! 

『千夏ちゃんが行く』
飛鳥新社

福本千夏さんの初めての本。
処女作とは思えないクオリティに編集さんが驚いたとか。
泣いて、笑って、恋をして。
一途、前向きに突っ走る!
清冽な生き方が胸を打つ、なにわのオカン、再生の物語。


 

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