第2回 この夏は
コロナ禍でなければこの夏は、沖縄の青い海のそばで暮らしていたかもしれない。
沖縄には学生の頃から数えて、かれこれ40年になる付き合いの友人がいる。沖縄に魅せられ、彼女は大学卒業後、沖縄に移り住んだ。
私は結婚後も家族と年に一度沖縄を訪ね、彼女との時間を楽しんだ。体力もなく、年中どこかしら痛みを抱える私は、彼女が沖縄で結婚をするまで「私の万が一には家族を託したい」と思ってさえいた。
「ちなっちゃん。そんなドラマみたいなこと考えてたんやー。知らんかったわー」と大爆笑するだろう彼女には口にしなかったけれど。もちろん、夫は妻のそんな思いなど知る由もなかったはずだ。そして、こんなあほぅな私を置いて、まさか、夫のほうが先に逝くとは…。
彼女は、夫の出棺後、数日間、我が家にいて私の命を見張っていてくれた。あの時彼女がそばにいてくれたから、私の身は大空に舞い上がらなかった。今も…。
一人じゃないよ。人生の土壇場には私を思い出してくれぃ。そんな愛の言葉を恥ずかしげもなく言いあえるのもまたいい。
退職からの書籍出版という大きな出来事を終えた去年末。私は、寒い間の沖縄ロングステイを考えていた。住まいに縁あれば、そのままの永住もとぼんやり想っていた。が、人の手を借りて生活を成り立たせている私。日常を止めるのはなかなか難しい。寒さも増し、痛む足とにらめっこして、飛行機の予約をずらしているうちに年が明け、あれーあれれれっとコロナが広まっていった。あの時、エイヤ!と心のアクセルを踏んで、飛行機に乗っていたら…。いやいや、タラの人生はないということも私はよく知っている。結局、私はまだ沖縄とご縁がないらしい。
だけど、まさか、ゲーム機をねだられる夏になるとは…
川に入っていった私をまん丸い目で見ていた子と五年ぶりに再会。「ひやー。かんちゃん?大きくなって」と友人の後ろのマスク顔に声をかける。買い物を済ませ、広々としたティーラウンジに三人、横並びで腰を掛ける。
「千夏さん、白目向いて…。疲れたんですか? カート持ったら無敵やったのに。千夏の突撃ご飯隊みたいやった」とかんちゃんはくすくす笑う。「変わってないねー。さすが私を川にぷっこんだやつ」と私。「うそー。あれは率先していきはったんですって」とにんまり。うふふふと私。「僕も時々フリーズしますけど」「ふーん。今は世の中がフリーズしてんの」
「さすが、ちぃちゃん」と、かんちゃんママはみんなの手に消毒液を吹き付ける。この夏初めてのクリームソーダーを頬ばる私の隣でコーヒーをすする17歳。「かんちゃん。一つでもやりたいことある?」と聞いてみる。
「女の子は出会った殿方で何とかなるけど、男の子は食べていかなあかんし」なんて言葉を続けたら、ママもかんちゃんも大爆笑するだろう。かんちゃんは熱くゲームの話をしだす。
私もこの夏は自分の価値観が少しでも覆る経験がしたい。でも…ゲームはその類ではない気がするのよ。おぱちゃんは。
ー心温めあえる友人撮影の沖縄の海ー