伊東市在住、おんな組組員・伊豆半島人を名乗る中山千夏さんの、身辺四方八方雑記!
伊豆新聞のシニア・ページに、2009年から毎週一回、連載されている長寿コラムを、同新聞のご協力で、おんな組用にアレンジ。たっぷり転載していきます。
 
 
 

第180回 マイムとヨネヤマ・ママコさん

板につく、という言い方がある。仕事や態度ものごしがその道の専門家として、ぴったりサマになっていること、を指して言う。
この「板」は、舞台の板だ。役者はぴったりと板に乗って演技しなければならない。ふわふわそわそわと落ち着かなく見えるのは、大根役者である。チビながらにそう心得て舞台に上がっていたものだ。

考えてみると、なるほど舞台での演技というものは、芝居にせよ踊りにせよ、いかに板につくか、を最終目標になされるもののようである。歌舞伎でもバレーでも、どんなに高く激しく跳躍しても、最後はピタリと板につく。
いいかえれば最終的には重力を表現しておさまる。
おおげさに言えば最後の重力を強調するための、激しい跳躍なのだ。

これは万国共通の、踊りや演技の基本なのではなかろうか。
けれども、たったひとつ例外がある、と思う。
むろん私はそういう芸の研究家でもなんでもないので、これは単なる観客の感想にすぎないのだけれど、そう思う。
それはパントマイムだ。

パントマイムのマルセル・マルソーとその劇団が初めて世界ツアーに出かけ、日本にも来たのは1955年のことだそうな。
そりゃもう大変な騒ぎだった、すでに始まっていたテレビ放送で、その驚くべき芸は日本中に広まり、子どもたちの話題にもなった。

誰もそんな芸は見たことがなかったのだ。なにもない舞台に、たったひとりの芸人が肉体の動きだけで、いくつものシーンを鮮やかに展開して見せるなんて。
それよりなにより、パントマイムは重力をまったく度外視する、という点で、世界初の感覚を私たちにもたらした。それが何より斬新だったのだ、と今は思っている。

ヨネヤマ・ママコという不思議なひとが、やはりテレビで有名になったのも同じころだ。その方面に暗かった私は、彼女とマルソーの関係など考えたこともなかった。

ママコさんと親交を得たのはずと後、1990年代に入ってからだ。成長?したリブ仲間が「凡そ70歳」と題するイベントを企画した。仲間にはアングラな芸や音楽に通じた者も多く、彼らがママコさんに激しくアタック、共演を承諾してもらったのだ。
テレビ局で何度か会ったことのあるママコさんは、ステージのあとの打ち上げにも参加してくださった。私のそばに座って、チナッチャン、チナッチャンとなつかしそうに呼びかけられたのが今も耳に残っている。

芸には大胆だったが、シャイなひとだった。

記録によるとママコさんは、1955年に来日したマルソーの公演を観ている。しかし初のマイム作品「雪の夜に猫を捨てる」の発表はその前年だ。
マルソーの影響はどうだったのだろう、一度ゆっくりうかがいたい、と思っているうちに、訃報が届いた。9月20日、老衰により逝去、83歳、と。

なつかしいひとがどんどん居なくなる。コロナ君だけはまだ完全撤退してくれない。


物言う足たち(9月6日 JR中央線で)

伊豆新聞に連載中 その730(2023年9月27日掲載)


第179回 ひとなみにコロナ
第178回 あきらめ
第177回 選考の季節
第176回 
第175回 原爆が落ちた日
第174回 Mちゃんの悟り
第173回 オオミズアオ
第172回 人生のターニングポイント
第171回 後期高齢突入エンゼツ
第170回 私の番号なんのため?
第169回 誰がために鐘は鳴る!
第168回 友のこと

第167回 今度生まれかわったら 
第166回 「わか見え」反対!
第165回 極楽トンボのゴクラクチョウカ考
第164回 ひねっても出ない時に
第163回 ありのままに
第162回 「下界」ぶらぶらの巻
第161回 日曜朝の異変
第160回 チエちゃん
第159回 ムツゴロウと益田一
第158回 センセイのこと
第157回 警察発表を読む時
第156回 韓日かたがわり考
第155回 地域色もいいけれど
第154回 メザシと白いごはんさえあれば
第153回 キモチワルイのこと
第152回 げにフツウとは
第151回 「兄弟」か「他人」か
第150回 千里の道もティッシュから
第149回 ちょっと劇場へ
第148回 遊ぶは人間
第147回 矢崎泰久さん逝く
第146回 自然に生き抜く!

〜〜〜2022年〜〜〜

第145回 冬の扇風機
第144回 ヒミコいわく
第143回 %の魔術
第142回 情報操作とSNS
第141回 スポーツ好きのみなさんへ
第140回 「男社会」いまむかし
第139回 女ならでは
第138回 カードはお持ちで?
第137回 大病院観察記
第136回 ぼくらが子役だったとき
第135回 認定こども園??
第134回 死のライン
第133回 シェルブールの雨傘
第132回 パパ活選挙制度
第131回 久々の東京行き
第130回 利き手の考察
第129回 独裁党はデイリがお好き
第128回 深沢七郎ってひと
第127回 言論の自由社?
第126回 やたら暑い日々に
第125回 虫にも事変!
第124回 フォーク路地のコウタローさん
第123回 選挙はアブナイ
第122回 投票には行こう
第121回 老人と海
第120回 業者が作る系少女
第119回 正義があっても
第118回 草刈りをして
第117回 海苔のこと
第116回 若気の馬鹿力
第115回 子たちの集団移動
第114回 コトバの意と心
第113回 野放しの歌
第112回 あとは実行あるのみ!だが・・・
第111回 成人18歳に悩む
第110回 男のなかのオトコ

第109回 自分の場所
第108回 コロナに戦争
第107回 ソラマメの記憶
第106回 しかし3月
第105回 父、大往生す
第104回 開戦前夜のココロ
第103回 蕗味噌私流
第102回 どすこい女相撲
第101回 いらっしゃい、よく来たね
第100回 緊急速報
第99回 雪がランラン
第98回 あけまして!

〜〜〜2021年〜〜〜

第97回 これで一年しめくくり
第96回 なぜにクーポン
第95回 MRを埋め込まれる!
第94回 男はバアサン、女はジイサン
第93回 私らゴチャマゼ人
第92回 シワについて
第91回 ひさびさの死刑廃止論
第90回 ふむ、私は順調に老化している
第89回 男社会のオンナのトク
第88回 宇宙旅行について
第87回 我が投票
第86回 悲喜交交で冬に入る
第85回 ダイアナはたまた貴船菊?
第84回 転んでコケて
第83回 堤防に穴が……
第82回 うつうつ
第81回 だいじな居場所
第80回 どうしてとめられないの?
第79回 ドーデモイイ問題
第78回 入れ墨のココロ
第77回 ダイブツにゴフン???
第76回 センタクテキフウフベッセイ
第75回 虚しい「平和の祭典」
第74回 ハワイの狐トウキョウの狐
第73回 怪しい外来語
第72回 貧乏草は野生草
第71回 謙虚な話
第70回 いまごろアニメに親しんで
第69回 ぐるんぐるん
第68回 好きでもないのに
第67回 打たなくていい理由
第66回 アルゴンキン族の月
第65回 芸人の緊急事態宣言
第64回 スカート男子に幸あれ
第63回 マンボウマンボ
第62回 かたわらの話
第61回 古新聞からティッシュまで
第60回 ひとのコトバ
第59回 スイスのステキなシステム
第58回 3月8日の朝に
第57回 花と人間の不思議な関係
第56回 スモモの木の下で
第55回 10年後の余震???
第54回 男の会議から女の会議へ
第53回 コロンボがいない国
第52回 足指自由宣言
第51回 ロウバイの日々
第50回 ワルガキ
第49回 おせっかいで団結!
第48回 木星と土星が接近すると
第47回 青空に白く光る
第46回 ガスレンジ新式?!
第45回 薬局の娘が……
第44回 転々流転の姓ながら
第43回 よろしうおたのもうします
第42回 奇っ怪!アメリカ式選挙
第41回 老いてなおハツラツ?
第40回 どうしてる?労働者諸君!
第39回 ひさびさの博士
第38回 タレント事務所に電話してみた
第37回 コロナと3大統領
第36回 不安なゴマカシ日本語
第35回 このごろの自殺
第34回 元子役の意見
第33回 今こそラジオ体操!
第32回 爺さんは婆さんだった
第31回 LGBTQ+
第30回 学歴詐称
第29回 嬉し恐ろし初体験
第28回 趣味はカネ儲け?
第27回 『雨』を歌えば
第26回 ツッパルことが男の……
第25回 連日の雨に
第24回 ひしひしと不確実性の時代
第23回 野球オンチなので
第22回 トランプ的思い上がり?
第21回 ウグイスはなんと鳴く?
第20回 昔「広告屋」今アドマン
第19回 ステキなステッキ
第18回 みいんなマスク
第17回 ただいま!雑記復活!
第16回 みなさんご無事で!!!
第15回 DT方式?!
第14回 ウイルスと風俗
第13回 私の問題・社会の問題
第12回 ワラビとカンゾウ
第11回 ウイルスまくひとカネまくひと
第10回 新型コロナウイルスお目見え!
第9回 新型コロナウイルスで流行る自粛
第8回 カードの脅迫
第7回 「仮釈放」の友
第6回 子抱き地蔵
第5回 マスクが消えた?!
第4回 確率論的津波評価、なぜ?
第3回 「次世代」なるもの
第2回 道玄坂の日の丸 
第1回 新年につきごあいさつをば

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