第66回　アルゴンキン族の月

いつものように就寝前の歯磨きを、とドアを開けて、驚いた。
点灯するまで暗いはずの洗面所が明るい。ブラインドや窓枠の間からなごやかな光がたっぷり差し込んで、床板やインデアン柄の薄い敷物をやわらかく輝かせている。
月の光だ。
しかし、こんなに明るい月光が洗面所に差し込んだこと、あったかしら、と半信半疑でいつもとは違う床の景色に見とれながら、「今夜の月はなんだかすごく明るいよ」と叫んだら、家人が、あっと声を上げて、「そういえば今夜は、特別な満月だって、ネットで読みましたよ。ピンクムーンとかいうんだって」
もちろん歯磨きは中止。うちのベランダや窓からは見えないので、急いで、ただし転ばないように用心しながら、外へ出て、木々に邪魔されないで月が見える場所に陣取り、心ゆくまでお月見をした。

みなさんもご覧になりましたか？　なるほどニュースになるだけあってとても大きなぴっかぴかの満月でしたね。色はピンクではなく薄紫に見えた。
最近、天文ファンに人気のピンクムーン、実はピンク色だからそう呼ばれているのではないそうだ。ネット情報だからね、信じてよさそうなところだけつまむと、北アメリカの原住民のうちで、最も人口が多いアルゴンキン族は、かつて月によって生活していた。だから毎月の満月にもそれぞれ名前があって、４月の満月をピンクムーンと呼んだ。それが名の由来。
春に咲くフロックスという花がピンクなのにちなんでいる……という。調べたらフロックスとは日本でも有名なシバザクラやキキョウナデシコを含む64種類もの花の種名で、原種はともかく、現在ではツルハナシノブのように空色の種類も含んでいる。

だからどうもこの説は、最近とみに多種多様色とりどりな花を開発して一大市場をなしている花業者たちの肝いりで流布されのではないか、と疑いたくなる。第一、ピンクムーンはもろ英語ではないか。ほかの満月の名も全部英語。命名者とされる原住民は、アルゴンキン語族とも呼ばれるから、独自の言語を持っているはず。よってこの説は、アルゴンキン族ではなく、英語族、それも天文族ではなく、園芸業者族が広めたものに違いなく、だからあんまり信用できない、と私は思うのだけれど、はて、月光に狂ったアタマのヒガゴトだろうか。

それはともかく、満月が大きく見えるのは、月がそれだけ地球に近い軌道上を通過しているからであって、究極の近さで、したがって最も大きく明るく輝く満月をスーパームーンと呼ぶ、そして今月26日がその満月で、しかもなんと約3年ぶりの皆既月食だ、と天文族は興奮している。こりゃ見なければ、と私もやや興奮。
ところでこの写真、お月見のあとで撮ったうちの洗面所の月光です。月の天体写真よりいい、と自画自賛しているのですが、わけわからん、という意見も周辺から出ています。えへへへへ。

2012年4月28日0時7分撮影

伊豆新聞に連載中　その616（2021年５月５日掲載）

第65回　芸人の緊急事態宣言
第64回　スカート男子に幸あれ
第63回　マンボウマンボ
第62回　かたわらの話
第61回　古新聞からティッシュまで
第60回　ひとのコトバ
第59回　スイスのステキなシステム
第58回　3月8日の朝に
第57回　花と人間の不思議な関係
第56回　スモモの木の下で
第55回　10年後の余震？？？
第54回　男の会議から女の会議へ
第53回　コロンボがいない国
第52回　足指自由宣言
第51回　ロウバイの日々
第50回　ワルガキ
第49回　おせっかいで団結！
第48回　木星と土星が接近すると
第47回　青空に白く光る
第46回　ガスレンジ新式？！
第45回　薬局の娘が……
第44回　転々流転の姓ながら
第43回　よろしうおたのもうします
第42回　奇っ怪！アメリカ式選挙
第41回　老いてなおハツラツ？！
第40回　どうしてる？労働者諸君！
第39回　ひさびさの博士
第38回　タレント事務所に電話してみた
第37回　コロナと３大統領
第36回　不安なゴマカシ日本語
第35回　このごろの自殺
第34回　元子役の意見
第33回　今こそラジオ体操！
第32回　爺さんは婆さんだった
第31回　LGBTQ＋！
第30回　学歴詐称
第29回　嬉し恐ろし初体験
第28回　趣味はカネ儲け？
第27回　『雨』を歌えば
第26回　ツッパルことが男の……
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第18回　みいんなマスク
第17回　ただいま！雑記復活！
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