伊東市在住、おんな組組員・伊豆半島人を名乗る中山千夏さんの、身辺四方八方雑記!
伊豆新聞のシニア・ページに、2009年から毎週一回、連載されている長寿コラムを、同新聞のご協力で、おんな組用にアレンジ。今年からたっぷり転載していきます。
 
 
 

第21回 ウグイスはなんと鳴く?

個人の音感というものも文化に培われるものらしい。今は亡きヒロちゃんこと岩城宏之さんに聞いたところでは、本物のウインナーワルツは、ウイーンのオーケストラでないと演奏できない。ワルツすなわち三拍子の間合いが微妙に異なるそうで。
へええ、と思っただけで、私には差がよくわからない。ヒロちゃは音楽家、それも世界で評価されたオーケストラ指揮者の耳だから、異常に敏感なのだ。特に洋楽の音やリズムに。つまり洋耳。一方、自慢じゃないが、私はかなりな和耳。つまり、山坂道みたいな和式音階で、三味線のような単音のメロディ、お経のような単純でゆるいリズム、それはよく聞き分ける。けれども塔の螺旋階段みたいな音階とハモる重音ときっちりしたリズムが骨格の洋楽は不得意。
ただし私らの年代は、洋楽が主の文化で育ったので、耳も洋楽に親しく、純粋な和楽はよく聞き取れないし真似もできない。

ところで和耳には、鳥獣の鳴き声を音のまま聞きわけるのが難しいのではなかろうか。というのも日本語は高度に簡素化された音からなっているので、耳もまた簡素な音だけ聞き分ける。ところが鳥獣の鳴き声はとても複雑な音から成っている。そう、まるで英語やフランス語のように。だからだろう、鳥獣の擬音と実音の違いが日本語ではえらく大きい。よく聞くと犬はワンワンではなく、むしろバウワウ(bowwow)と吠えているし、羊もメエメエではなくむしろベエエベエエ(beebee)と鳴く。
この時期は鳥の声がかしましい。今朝も一番乗りのウグイスを皮切りにいろいろな鳥の歌を聞いたけれども、ウグイスは決してホーホケキョとは言わない。トゥルルルルルケキョケキョケキョ…といういわゆる谷渡りの声に続くサエズリは、日本語ではとても表せない複雑な音だ。
和耳がそれをホケキョと聞き取りそう真似をし、そう書いた。そしてその文化に育った私の耳には、たしかにホケキョと聞こえる。ほかの特徴ある鳥の声も、和耳はすぐ日本語に翻訳する。ホトトギスは妙なアクセントでホトトギスダ…ホトトギスダ…と自己主張するし、負けじとコジュケイはキイトクレ!と叫ぶ。

さて、こうして日本語にしやすい鳴き声は簡単に記憶できるけれども、そうでないのはなかなか覚えられない。私だけかしら? 音の出る図鑑で調べれば、あ、シジュウカラか、おやコムクドリも来ているな、おおあれはウソか、などとわかるのだけれど、日本語にできない音はすぐ忘れてまた調べることになる。むろん声による個体識別なんかとてもできない。
あ、一羽だけできるのがあった。おおかたのカラスは喉声でカアとかガアとか言うのだが、一羽だけカワと叫ぶのがいる。週に一回は近くの杉のてっぺんでカワと4、5回叫ぶ。同じ回数、真似てやる。何度か繰り返すと飛び去ってゆく。話が通じているとしか思えないのだが……あれコロナの熱の幻覚かしら!

伊豆新聞に連載中 その571(2020年6月10日掲載)


お気に入りの雑草・キキョウソウ。ダンダンギキョウとも。庭で。


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第17回 ただいま!雑記復活!
第16回 みなさんご無事で!!!
第15回 DT方式?!
第14回 ウイルスと風俗
第13回 私の問題・社会の問題
第12回 ワラビとカンゾウ
第11回 ウイルスまくひとカネまくひと
第10回 新型コロナウイルスお目見え!
第9回 新型コロナウイルスで流行る自粛
第8回 カードの脅迫
第7回 「仮釈放」の友
第6回 子抱き地蔵
第5回 マスクが消えた?!
第4回 確率論的津波評価、なぜ?
第3回 「次世代」なるもの
第2回 道玄坂の日の丸 
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