伊東市在住、おんな組組員・伊豆半島人を名乗る中山千夏さんの、身辺四方八方雑記!
伊豆新聞のシニア・ページに、2009年から毎週一回、連載されている長寿コラムを、同新聞のご協力で、おんな組用にアレンジ。たっぷり転載していきます。
 
 
 

第35回 このごろの自殺

自殺数の統計を警察庁がとり始めたのは、1978年だという。
やがて、経済大国G7のなかで、日本は最も自殺率が高い、と内外の話題になった。1998年ごろ、自殺は急増して3万件を超え、2003年には統計上最多の3万2109件を記録した。2011年からはなぜか減少しているが、今も世界1らしい。
社会学者の研究によると、こうした変動は必ずしも世の中の景気・不景気や平和・騒乱とは同期していない。最も新しい論(今年5月に青弓社から出版された『新自殺論 自己イメージから読み解く社会学』)をとりまとめた学者によると、自殺数の変動はひとが「体面を失う(フェイス・ロス)」ことと関係しているという。
その本を読んではいないし、難しそうだから読むつもりもないのだけれど、体面を失うことが自殺につながる、というのはわかる。男女で見ると、女の自殺数は男よりいつも少なくて、ほぼ1万人弱で続いている。これは、女には体面を保つ必要のある場が少ない、ということだ。つまり世間の規模が小さいので、体面を失っても打撃が小さい。
対して男には、特に日本の男には、体面を失うことが切腹になる歴史があって、その影響は、われらウーマンリブが男の体面を軽くしたにもかかわらず、まだ残っている。今も男は女よりも広く社会とかかわり、そのぶん体面の、いわば面積も広い。失うと自分が無くなってしまうほど広い。

戦争やコロナ禍などが即自殺増加につながらないのは、みんなでいっしょにひどい目に会っている感じが強くて、自分だけの体面が問題にならないから、ではなかろうか。一部の予想を裏切って、コロナ禍の経済悪化のなかでの自殺数はむしろ減っている。
自殺を避けるという観点からは、ヒキコモリはいいらしい。体面を気にする機会が少ないから。しかし、現代ではインターネットという「世間」があるので、ヒキコモリでも体面が傷つく機会が生まれる。タレントの木村花さんのような自殺は、ネットで体面を傷つけられた結果の代表例だろう。

それにしても今年は芸能人の自殺が多くないですか? と言っても花さんをはじめ、報道が芸能人と言っているから、そうか、と思うだけで、私はよく知らないひとばかり。いや、最近の芸能人について私の知見が狭いだけで、ネットにはその死を悼む声が多い、そんなひとたち。5月の木村花さんに続いて、7月には三浦春馬さん、8月に濱崎麻莉亜さん、9月14日に芦名星さん、そして20日には藤木孝さんの自殺が報じられた。藤木さんだけは幼い頃からTVや舞台を観てよく知っている。
その程度のことであっても、知人の自殺には「フェイス・ロス」だけではないアレコレが思いやられる。統計はあくまで統計であって、自殺にいたったひとりひとりの思いを解明できはしないだろう。
なんにせよ惜しい。晩年の藤木孝は個性的ないい俳優だった。惜しい。

伊豆新聞に連載中 その585 (2020年9月23日掲載)


ヒガンバナの季節


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第32
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第31回 LGBTQ+
第30回 学歴詐称
第29回 嬉し恐ろし初体験
第28回 趣味はカネ儲け?
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第22回 トランプ的思い上がり?
第21回 ウグイスはなんと鳴く?
第20回 昔「広告屋」今アドマン
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第18回 みいんなマスク
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第16回 みなさんご無事で!!!
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第14回 ウイルスと風俗
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第12回 ワラビとカンゾウ
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第9回 新型コロナウイルスで流行る自粛
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第3回 「次世代」なるもの
第2回 道玄坂の日の丸 
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