第122回　投票には行こう

腐った政治を立て直そうと、「学者・文化人」と総称される人々が、新党「革新自由連合（革自連）」の設立を企てたのは、１９７７年のことだった。
その人たちには、有名なので知っている学者もいれば、共に仕事をしていたことのあるジャーナリストや作家もいた。その党首になってほしい、と誘われて、一晩考え、了承したのは、彼らの顔ぶれからして、見かけはどうあれマジメな信頼できる運動だと見たからだった。
私はまだ29歳で被選挙権はなかった。要するに私は広告塔をやればいいのだ、と考えた。運動歴も学歴も有り余るひとが何人もいるのだから、神輿に乗っていれば少しは役に立てるだろう、そんな感じ。なにしろリブはかじっていたけれど、政党や選挙にはまったく縁も関心もなかったのだ。

その夏の選挙では革自連から10人が立ち、仲間が本当に国会に送りたかった人たちはみんな落選。唯一当選した横山ノックさんは、当選後、「あなたたちは私に何をしてくれましたかっ」と怒声を残して党を去った。次の参院選では被選挙権のできた私が立って当選し、6年間のオツトメを果たした。さらに仲間は続投を望み、東京選挙区に立った私は次点で落選。メデタク政界を離れることができた。
この経験でよかったのは、正義と政治活動とは相容れない、という世間の常識を私も知ったことだろう。選挙を筆頭に政治活動には、正義は邪魔になるだけだ。とにかく勝てばよし、負けたらなんの役にも立たない。負けても正義を貫く、という姿勢は、政界においてはバカマヌケ。私たちはそれだった。選挙戦にはリコウな政治活動家がごろごろいて、また正義を求める支持者たちもごろごろいて、はああ、くたびれた。

おかげで一選挙民としての眼力はついたと思う。近々の参院選でも候補の略歴を見ればそれがどの程度「政治家」か「正義の人」か、ありありとわかる。私が経験した戦場の鮮やかな場面をともなって。だからうんざりするが、投票には行く。行かねばならない。党首の時、投票には必ず行きましょう、と「正論」を叫んでいたからだ。今でも正しいとは思う。でもあまりに「政治家」ばかりの立候補者群を見ると、むなしい。

「出たい人より出したい人を」のスローガンがいかに無理難題かを思い知ったのも、収穫だった。出したい人はおおむね出ないものである。最大の収穫は、本当に純粋な正義のひと何人かに出会えたことだ。なかでも『苦海浄土―わが水俣病』の石牟礼道子さん。学者の宇井純さんの紹介で一面識を得たのだと思う。立候補したら電話をくださった。「選挙、大変でしょう、立ってくれてありがとう」。私は腰が抜けるほど驚いた。応援するよ、がんばれ、など激励の言葉はたくさんいただいたが、立候補の礼を言われたのは初めてだったのだ。それこそ「苦海」の選挙戦を戦っていた私には、なんとも感動だった。
それからは私も、辛さが思いやられる立候補者には、お礼を言うことにしている。

伊豆新聞に連載中　その672（2022年7月６日掲載）

第121回　老人と海
第120回　業者が作る系少女
第119回　正義があっても
第118回　草刈りをして
第117回　海苔のこと
第116回　若気の馬鹿力
第115回　子たちの集団移動
第114回　コトバの意と心
第113回　野放しの歌
第112回　あとは実行あるのみ！だが・・・
第111回　成人18歳に悩む
第110回　男のなかのオトコ
第109回　自分の場所
第108回　コロナに戦争
第107回　ソラマメの記憶
第106回　しかし3月
第105回　父、大往生す
第104回　開戦前夜のココロ
第103回　蕗味噌私流
第102回　どすこい女相撲
第101回　いらっしゃい、よく来たね
第100回　緊急速報
第99回　雪がランラン
第98回　あけまして！

〜〜〜2021年〜〜〜

第97回　これで一年しめくくり
第96回　なぜにクーポン
第95回　MRを埋め込まれる！
第94回　男はバアサン、女はジイサン
第93回　私らゴチャマゼ人
第92回　シワについて
第91回　ひさびさの死刑廃止論
第90回　ふむ、私は順調に老化している
第89回　男社会のオンナのトク
第88回　宇宙旅行について
第87回　我が投票
第86回　悲喜交交で冬に入る
第85回　ダイアナはたまた貴船菊？
第84回　転んでコケて
第83回　堤防に穴が……
第82回　うつうつ
第81回　だいじな居場所
第80回　どうしてとめられないの？
第79回　ドーデモイイ問題
第78回　入れ墨のココロ
第77回　ダイブツにゴフン？？？
第76回　センタクテキフウフベッセイ
第75回　虚しい「平和の祭典」
第74回　ハワイの狐トウキョウの狐
第73回　怪しい外来語
第72回　貧乏草は野生草
第71回　謙虚な話
第70回　いまごろアニメに親しんで
第69回　ぐるんぐるん
第68回　好きでもないのに
第67回　打たなくていい理由
第66回　アルゴンキン族の月
第65回　芸人の緊急事態宣言
第64回　スカート男子に幸あれ
第63回　マンボウマンボ
第62回　かたわらの話
第61回　古新聞からティッシュまで
第60回　ひとのコトバ
第59回　スイスのステキなシステム
第58回　3月8日の朝に
第57回　花と人間の不思議な関係
第56回　スモモの木の下で
第55回　10年後の余震？？？
第54回　男の会議から女の会議へ
第53回　コロンボがいない国
第52回　足指自由宣言
第51回　ロウバイの日々
第50回　ワルガキ
第49回　おせっかいで団結！
第48回　木星と土星が接近すると
第47回　青空に白く光る
第46回　ガスレンジ新式？！
第45回　薬局の娘が……
第44回　転々流転の姓ながら
第43回　よろしうおたのもうします
第42回　奇っ怪！アメリカ式選挙
第41回　老いてなおハツラツ？！
第40回　どうしてる？労働者諸君！
第39回　ひさびさの博士
第38回　タレント事務所に電話してみた
第37回　コロナと３大統領
第36回　不安なゴマカシ日本語
第35回　このごろの自殺
第34回　元子役の意見
第33回　今こそラジオ体操！
第32回　爺さんは婆さんだった
第31回　LGBTQ＋！
第30回　学歴詐称
第29回　嬉し恐ろし初体験
第28回　趣味はカネ儲け？
第27回　『雨』を歌えば
第26回　ツッパルことが男の……
第25回　連日の雨に
第24回　ひしひしと不確実性の時代
第23回　野球オンチなので
第22回　トランプ的思い上がり？
第21回　ウグイスはなんと鳴く？
第20回　昔「広告屋」今アドマン
第19回　ステキなステッキ
第18回　みいんなマスク
第17回　ただいま！雑記復活！
第16回　みなさんご無事で！！！
第15回　DT方式？！
第14回　ウイルスと風俗
第13回　私の問題・社会の問題
第12回　ワラビとカンゾウ
第11回　ウイルスまくひとカネまくひと
第10回　新型コロナウイルスお目見え！
第9回　新型コロナウイルスで流行る自粛
第8回　カードの脅迫
第7回　「仮釈放」の友
第6回　子抱き地蔵
第5回　マスクが消えた？！
第4回　確率論的津波評価、なぜ？
第3回　「次世代」なるもの
第2回　道玄坂の日の丸　
第1回　新年につきごあいさつをば

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