第162回　「下界」ぶらぶらの巻

久しぶりに下界を歩きまわりました、先週の木曜日です。
あ、下界というのは厳密に「我が家より高度が低いところ」の意であって、他意ありません。「町」と言ってもいいんですが、わが町には河口や海岸がど〜んとあって、ふつうの町とはイメージが違う。やっぱり、我が家は山、あちらは下界。

先週の木曜日、ちょっと用があって9時頃でかけた。用が済んだのが11時ごろ。天気がいいしヒマ人だし、それから数時間、下界で遊んだ。
まず、久しぶりに馴染みのお蕎麦屋さんに寄って、好物の天南を奢った。お店のひとも味も昔どおり、おいしかった。大満足。
それから湯の花通りの商店街をぶらぶらと藤の広場へ。
店のシャッターが多いのにややメゲながら、途中、先日の火災現場をヤジウマ覗き。安藤さんたち大変だなあ、と思いながら囲い込まれた焼け跡を見ていたら、なんと当の安藤さんがいた。もともと明るいひとだが、こんな時にも、無理なく明るい。ほっとしながら久々の雑談。

またブラブラ。元市役所跡の公園、藤の広場でじっくり休憩し、それから広場の前の川岸を伝って海へ向かった。夏の花火、家族や友人との遊び、そしてダイビング、このコースでの楽しい思い出にはことかかない。

そして！　最高に楽しい現在があった。それは河口から海辺に集う鳥たちの様子だ。
山にも鳥は多くいる。しかし下界の鳥とはまず種類が違う。そして山の鳥は居ながらにして、半ば無意識に、その生態をよく見る機会が多い。けれども下界では、さっさと用事して回るので、鳥の様子などじっくり見ない。でも今回は「下界ぶらぶら」こそが目的だったので、よく見てしまったのだ。

一目でまず種類の多さに感じ入る。波が寄せるあたりにはカモメたち、その上空にはトンビたち、そして河口にはカモたち、その砂地には水を飲むアゲハチョウと並んで、急いでなにかついばむセキレイ。
ひまにあかせて眺めていると、鳥たちの動きが意味を持ってくる。彼らも、私がひとと付き合うのに似た仲間関係をたしかに持っている。
大きな集団のカモメやトンビはやかましく鳴き交わしながら、情報交換しているし、カモのカップルは間違いなく互いの動きを気にしている。「こっちこっち、早くいらっしゃいよお」「おいおい、そう海に寄るな、危ないぞ」

特に驚いたのは、これも山では見ないスズメだった。まず一羽、リーダーらしいのが河口の浅瀬で水浴びを始める。3羽ほど仲間が加わる。しばらくすると、リーダーが飛び去り、仲間があとを追い、見ると彼ら、砂地で砂浴びを始めたではないか。水浴びはともかく、鳥が砂風呂を使うなんて、生まれて初めて見た。きょうだいかしら、一羽はなにをするにも遅く、みんながそれを待ってやっている。

いやあ、我が方の下界は、実に奥が深い。
また機会を作ってブラブラしよう、と大満足で山に向かったのでした。

伊東市大川の河口で（4月27日撮影）

伊豆新聞に連載中　その712（2023年５月３日掲載）

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