伊東市在住、おんな組組員・伊豆半島人を名乗る中山千夏さんの、身辺四方八方雑記!
伊豆新聞のシニア・ページに、2009年から毎週一回、連載されている長寿コラムを、同新聞のご協力で、おんな組用にアレンジ。今年からたっぷり転載していきます。
 
 
 

第2回 道玄坂の日の丸

新春東京見聞録、第1弾! 
写真見てください。11日の土曜日に撮りました。
場所は、そうです、JR渋谷駅。忠犬ハチ公がいる広場前の、でっかいスクランブル交差点の一角。
伊東にこもりがちの今日このごろ、ここは私にとって東京の顔のひとつになっている。伊東から電車を乗り継いでこの駅で下車、タクシーで青山へ。そこに馴染みの美容院があるもので。うふっ、セレブでしょ、伊東からわざわざ青山へ髪切りに行くんだから。

でもタネを明かすと、いつもできるだけ用事をくっつけてついでに行く。その間、髪が伸びすぎても我慢する。そうしてまで通う理由は「今さらやめられない!」。かれこれ半世紀になるだろう、担当のN君との付き合いは。
出会ったころ、彼はいわゆるカリスマ美容師のお店の従業員、私は「売れっ子芸能人」だった。それから彼が独立し、今の店を構えるまで、ずっと散髪してもらっている。いっしょに70歳を越した。髪を切る方も切られる方も白髪になった。同じ時代を生きているので共通の友人知人、すぐ通じる話題にはことかかない。通わずにはいられないのだ。

というわけで、今や私の東京は、渋谷から青山近辺になっている。本年初の渋谷は、土曜にしては人出がなかった。いつもは老若男女内外まぜこぜの人間でびっしりのハチ公広場にも、隙間がある。周囲を見回す余裕がある。
おや、あちこちに日の丸が下がっている。正月飾りの名残かしらん。思い出した、都心の繁華街はなにかというとすぐ日の丸をぶらさげるのだった。伊東に住むようになってから、これは都心の特色だ、と知った。少なくとも伊東の商店街に日の丸は目立たない。
スクランブル交差点の青信号を待つ間に、近くのポールで翻る日の丸にカメラを向け、構図を決めようとしていて、びっくりした。
日の丸の横のひどく汚い板切れはなんだ? しばらく見て、それが「道玄坂」なる地名板の変わり果てた姿だとわかった。
この街はいったいどうなっているのだろう? 周囲には、今年に向けて新築されたばかりのデザイン性の高いビルがたち並び、全面ガラス張りの壁面は巨大なCG画面となって宣伝やニュースを垂れ流している。林立する広告塔もステキなデザインでどれもピッカピカに新しい。
これらを作ったひとたちは、その真中に読めないほど傷んだ「道玄坂」のあることが、気にならないのだろうか? 第一、その横に日の丸を飾ったひとたちは、地名版の傷みに心を痛めなかったのだろうか? そして地元のひとびとは?

これはもう、行政はもちろんのこと、地元の誰ひとりとして、この街を愛していない風景だ。ほかの街もこうなっているとしたら、もう日本は終わりだな。暗然としつつスクランブル交差点を渡る伊豆半島人でありました。

伊豆新聞に連載中 その552(2020年1月15日掲載)

 第1回 新年につきごあいさつをば

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