伊東市在住、おんな組組員・伊豆半島人を名乗る中山千夏さんの、身辺四方八方雑記!
伊豆新聞のシニア・ページに、2009年から毎週一回、連載されている長寿コラムを、同新聞のご協力で、おんな組用にアレンジ。たっぷり転載していきます。
 
 
 

第128回 深沢七郎ってひと

最近の世の中を見ていて思い出した。「人類滅亡教教祖」。
そう名乗って、世相の危うさを言ったり書いたりしてたんです、深沢七郎ってひと。
文学好きの読者にはいわずもがなでしょうが、『楢山節考』で中央公論第一回新人賞を受賞(1954年)。時に42歳。それが評判になり映画にもなった。
何作目かの『風流夢譚』のちょっとした描写が右翼の怒りを買った件でも有名だ(60年)。数年、逃げ隠れしていたらしいが、65年、埼玉に居を構え、「ラブミー農場」を開いて、没するまでそこに住んだ。若い二人の男子を従えて。
71年には東京墨田区の東向島に「夢屋」なる小店を開き、自分で今川焼を焼いて売っていた、というのも周辺には有名な話。

小説も書き続けた。晩年には自分で製本して自費で出版していた。
なぜかその一冊、お経みたいな製本の一冊を私は持っている。
「ぼくがチナちゃんに届けたんだよ」と言うのは矢崎泰久さん。70年代に若者やクリエイターに人気だった『話の特集』の編集長兼社長。時々、電話で存否確認しあう友だちだ。
「自費出版の本は好きなひとにしかあげないんだ、深沢さん」
えええっ、何度か会ったけど、好かれてるとは思わなかったなあ。
「大好きだったのよ、あなたが子役のころから」。
そういえば矢崎さんもうんと若い頃から知り合いだったんだよね。
「そう、ボクが中学に入ったばかりの頃。うちがあった世田谷に深沢さんが越してきた。故郷の山梨から出てきたの。日劇ミュージックホールにギタリストとして就職して。知り合ったのはね、近所の銭湯。銭湯なのに玉川温泉という名前だったんだ、はははは」

この話は何度聞いてもおかしい。
裸で初対面の時、矢崎ボーイズは一喝されたという。
「前を隠すなっ。前を隠す男はロクなもんにならんっ」
深沢さんはゲイだったと聞く。でもこれは、セクハラの一喝ではなく、深沢さん理想の男性像によるものだったに違いない。ヘンクツではあったが、上から目線は決して無かった彼を知っての推量だ。
「ヘンなおじさん、と思いながらもボクらが避けなかったのはね、いつも弾き語りしてくれるのよ、脱衣所で。前を隠すなって言いながら。それが上手でさ、プレスリーいっぱい歌ってくれたよ」

自作の曲「楢山節」を楽屋で歌っていたら、日劇の支配人が感動して、それ小説にしろよ、と勧めた。応じてできたのが最初の小説だった。そしてもうジャーナリストになっていた矢崎少年と著名作家になったヘンなオジサンとは、再び出会い、深沢さんが死ぬまで作家と編集者として親交を結んだ。
68年8月18日、深沢さんは持病の心臓発作で急死した。矢崎さんも出席した葬式では、プレスリーの曲をバックに彼自身の会衆への挨拶が流れ、焼香の時には彼が唱える般若心経が流れたそうだ。
ある時「友だちの葬式には出ない、本人が居ないんだもの、つまらない」と言ったら矢崎さん、わっと叫んで「深沢さんが同じことよく言ってたよ」。
だから私は深沢さんの文が好きなのかな。


月と花火(8月14日 ベランダから)

伊豆新聞に連載中 その678(2022年8月17日掲載)


第127回 言論の自由社?
第126回 やたら暑い日々に
第125回 虫にも事変!
第124回 フォーク路地のコウタローさん
第123回 選挙はアブナイ
第122回 投票には行こう
第121回 老人と海
第120回 業者が作る系少女
第119回 正義があっても
第118回 草刈りをして
第117回 海苔のこと
第116回 若気の馬鹿力
第115回 子たちの集団移動
第114回 コトバの意と心
第113回 野放しの歌
第112回 あとは実行あるのみ!だが・・・
第111回 成人18歳に悩む
第110回 男のなかのオトコ

第109回 自分の場所
第108回 コロナに戦争
第107回 ソラマメの記憶
第106回 しかし3月
第105回 父、大往生す
第104回 開戦前夜のココロ
第103回 蕗味噌私流
第102回 どすこい女相撲
第101回 いらっしゃい、よく来たね
第100回 緊急速報
第99回 雪がランラン
第98回 あけまして!

〜〜〜2021年〜〜〜

第97回 これで一年しめくくり
第96回 なぜにクーポン
第95回 MRを埋め込まれる!
第94回 男はバアサン、女はジイサン
第93回 私らゴチャマゼ人
第92回 シワについて
第91回 ひさびさの死刑廃止論
第90回 ふむ、私は順調に老化している
第89回 男社会のオンナのトク
第88回 宇宙旅行について
第87回 我が投票
第86回 悲喜交交で冬に入る
第85回 ダイアナはたまた貴船菊?
第84回 転んでコケて
第83回 堤防に穴が……
第82回 うつうつ
第81回 だいじな居場所
第80回 どうしてとめられないの?
第79回 ドーデモイイ問題
第78回 入れ墨のココロ
第77回 ダイブツにゴフン???
第76回 センタクテキフウフベッセイ
第75回 虚しい「平和の祭典」
第74回 ハワイの狐トウキョウの狐
第73回 怪しい外来語
第72回 貧乏草は野生草
第71回 謙虚な話
第70回 いまごろアニメに親しんで
第69回 ぐるんぐるん
第68回 好きでもないのに
第67回 打たなくていい理由
第66回 アルゴンキン族の月
第65回 芸人の緊急事態宣言
第64回 スカート男子に幸あれ
第63回 マンボウマンボ
第62回 かたわらの話
第61回 古新聞からティッシュまで
第60回 ひとのコトバ
第59回 スイスのステキなシステム
第58回 3月8日の朝に
第57回 花と人間の不思議な関係
第56回 スモモの木の下で
第55回 10年後の余震???
第54回 男の会議から女の会議へ
第53回 コロンボがいない国
第52回 足指自由宣言
第51回 ロウバイの日々
第50回 ワルガキ
第49回 おせっかいで団結!
第48回 木星と土星が接近すると
第47回 青空に白く光る
第46回 ガスレンジ新式?!
第45回 薬局の娘が……
第44回 転々流転の姓ながら
第43回 よろしうおたのもうします
第42回 奇っ怪!アメリカ式選挙
第41回 老いてなおハツラツ?
第40回 どうしてる?労働者諸君!
第39回 ひさびさの博士
第38回 タレント事務所に電話してみた
第37回 コロナと3大統領
第36回 不安なゴマカシ日本語
第35回 このごろの自殺
第34回 元子役の意見
第33回 今こそラジオ体操!
第32回 爺さんは婆さんだった
第31回 LGBTQ+
第30回 学歴詐称
第29回 嬉し恐ろし初体験
第28回 趣味はカネ儲け?
第27回 『雨』を歌えば
第26回 ツッパルことが男の……
第25回 連日の雨に
第24回 ひしひしと不確実性の時代
第23回 野球オンチなので
第22回 トランプ的思い上がり?
第21回 ウグイスはなんと鳴く?
第20回 昔「広告屋」今アドマン
第19回 ステキなステッキ
第18回 みいんなマスク
第17回 ただいま!雑記復活!
第16回 みなさんご無事で!!!
第15回 DT方式?!
第14回 ウイルスと風俗
第13回 私の問題・社会の問題
第12回 ワラビとカンゾウ
第11回 ウイルスまくひとカネまくひと
第10回 新型コロナウイルスお目見え!
第9回 新型コロナウイルスで流行る自粛
第8回 カードの脅迫
第7回 「仮釈放」の友
第6回 子抱き地蔵
第5回 マスクが消えた?!
第4回 確率論的津波評価、なぜ?
第3回 「次世代」なるもの
第2回 道玄坂の日の丸 
第1回 新年につきごあいさつをば

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