Vol.15 台湾 ー オアチェンを求めて

 台湾へ行ったら必ず食べるものがある。オアチェンである。平たく言えば「牡蠣のお好み焼き」。日本で紹介されているのは「牡蠣のオムレツ」と言われているが、私はお好み焼きだと思うよ。この前なんか、どーしてもオアチェンを食べて帰るんだよぉ〜と駄々をこねて、台北の友人と夜市へ繰り出し、1時間半も並んで有名店のオアチェンを食したものだ。まったく人気なんだから!でも、その店のオアチェンは、並んだ時間を考えてみればちょっと残念な味だったので悲しかった。
 最初にオアチェンを食べたのは台北近くのフードコートだった。車で九份(きゅうふん)から台北に戻る途中で、もうかなり台北に近かったというくらいしかわからない。でも、そこのオアチェンを食べて即座に私は「オアチェンファンクラブ日本代表!」に名乗りを挙げたのだ。だからして、いつか、絶対、もう一度あそこに行ってあのオアチェンが食べたいー、なんである。あー、そうそう。もしか日本でオアチェンを作ってみるなら、手に入るなら粉は本場のようにタピオカ粉を。もしなかったら小麦粉じゃなくて片栗粉を使ってくださいね。


  

 ご存知の人はご存知で、行ったことのある人も多いと思うが、日本人が行く台湾の観光地のベスト3に入るのが "九份" である。アニメ映画『千と千尋の神隠し』の場所のモデルになったと噂になったので(実はデマなんだが)台湾に詳しくない私もその名は知っていた。2度目の体育合宿のあと、せっかくだからどこか観光して帰ったらどうでしょう?とオーガナイザーに言われて、ではでは九份へ、ということになったのだ。
 観光案内を引き受けてくれたのはシュタイナー学校に娘が通っているというファミリーで、車で台北ー九份の往復と途中のガイド、宿泊までお世話になった。父親のハリーは写真家で、観光客のガイドや九份で民泊所をやっていたりして、まさに申し分ない案内役だったのだ。

 台北は東京みたいなもので、都市としての楽しさは満喫できる。流行のお店もレストランも夜市だって何箇所でもやっている。でも台湾の魅力は台北ばかりじゃない。私は車による旅で、主に海沿いだが、冷水が湧いて水着で涼めるスポット、奇岩の並ぶ海岸、小さな街の行列のできるアイスクリーム店などの楽しい寄り道をしながら九份に到着した。

 写真で見た九份は何層もの赤い提灯に彩られたファンタスティックなお城のようだった。中国的な街並みに日本統治時代の雰囲気がプラスされていて、確かに独特。実際に中に入っていくと、土産物屋やB級グルメ的な食べ物屋など小さな店が連なりひしめいている。人の流れになんとなく押されるように回廊をぐるぐるぐるぐる登りながら歩き続けると終点という感じだった。竹下通りとお祭りの屋台をごちゃ混ぜにミックスしたみたいな?

 ハリー一家の持っている家は提灯のお城からちょっと外れた高台にあった。みんなでコーヒーを飲みながら港の方を見ると、暗い海にいくつも漁り火が光っていた。これもまた九份観光の目玉のひとつらしかったが、確かに美しいものだった。私はその日の、驚きと笑いがいっぱいの充実した旅をぼんやり思い返していた。いい人たちに巡り会った。よく「台湾の人は日本人に親切だ」と言うけれど、実は台湾の人は誰に対してもあたたかいのだ。日本の文化や伝統が大好きという人は多いが、日本軍が台湾を支配していた黒歴史は学校でしっかり教えられると、台湾人の友人がちょっと言いにくそうに私に話したことがあった。
 夜の九份は静かである。夜が更けて、こっそりひとりで近くを歩いてみたが、やっぱりひとり(1匹)で散歩している犬が後をついてきた。台湾には繋がれていない犬がたくさんいる。そのせいか、なんだか景色自体も懐かしく感じられるのだった。

 

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天鼓プロフィール/アーティスト, パフォーマー, ミュージシャン

1979年女5人のバンド『水玉消防団』で音楽を開始。80年代からバンド活動と並行してヴォイス・パフォーマーとしてニューヨークやヨーロッパで数多くの音楽フェスに招聘される。アルバムは日本・アメリカ・スイス・フランス・香港などでリリース。92〜99年、アーティスト活動を続けながら息子を連れ英国留学。シュタイナー理論による4年間の彫刻(アート)コースやスピーチ&ドラマ、空間認識のムーブメントなどを学ぶ。パフォーマンスや美術分野での制作、ヴォイスや彫塑、ムーブメントのワークショップも多い。すきあらば陶芸、有機大豆での豆腐づくり(売るほど)、写真などを楽しんでいる。

 

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