Vol.5 スイス — 美しくて、したたかな国
80年代半ばから10年間ほど、頻繁にスイスで遊んでいた!?時期があった。いやいや、半分以上は仕事だったんじゃないかな。チューリッヒの小さなレコード会社が私のアルバムを2枚リリースしてくれた縁である。よくコンサートもしたが、スイスはヨーロッパの真ん中あたりだからツアーでは必ず通ったし、そのレコード会社を運営していたダニエルとは、仕事の付き合いというより気の合う友人になって、年に1、2回は「おねがーい」のひとことで市内のアパートに泊めてもらったりできるようになっていた。
スイスというのは、永世中立国とか雪を戴くアルプスの景色などから「正しい」やら「公平」やら「美しい」などといったイメージがあるが、銀行産業であやしく儲けるなど、一筋縄ではいかないしたたかな国でもある。
面積で言うなら九州よりちょっと大きいくらいなのに4カ国語(メインは3ヶ国語)が公用語。例えば日本国内で、日本語と中国語と韓国語が同じ権威を持って使われているようなことだ。スイスフレンチ、スイスジャーマン、スイスイタリー。各エリアで人々の言葉も違うし気質も顔つきも全然違う。日本人は、同じような人種的特徴を持ち、同じ言葉を使っているということによって「私たち同じ日本人だよねー!」と肩組んでアイデンティティを共有している気になるけど、そんなの実は「同じ国民」の決定的要因なんかじゃない。それは日本の特殊な思い込み。
スイスは世界最古の共和国とも言われているけど、産業の成り立たない小国で生き抜くためには、言葉や文化の違いを乗り越えてでも団結して自分たちを守る必要があったんだろう。比べると、島国ってほーんとノンキでいられるよね。ちゃんとわかるように説明しろよガースー、と思わず言いたくなるね。3カ国語を話せなくてもいいんだからさ。意味わかるように、みんなに通じるように話してくださいよ。言わなくてもわかるだろう的な態度だけでもスイスだったら完全アウトでしょう。
あるときダニエルが、急にタンスから機関銃を取り出して(むき出しの銃なら卒倒してたと思うけどソフトケースに入っていた。セーフ!)「兵役があるから」とサンダルばきで出かけて行ったりしたのも驚いた。ちなみに銃は自宅に持って帰れても、お持ち帰りの銃の玉は支給されないらしい。1996年以降は兵役の代わりに社会奉仕でもよくなったようだが、近年そのために兵役に従事する人が減って問題になっている。
その昔、「傭兵」というのはスイスの大きな収入源であったようだ。19世紀後半から傭兵の輸出は禁じられたが、いまでも「バチカンのスイス衛兵」だけは存続している。「中世のスイス農民歩兵隊はヨーロッパ一強かった」と言われているから、伝統的にマッチョなのですね。
国民皆兵(男性)が続いてきたせいばかりでもないだろうが、スイスの婦人参政権は1971年までなかった。ええーっ!100年間違ったかと思った。笑えますねー。1971年だって!日本より断然遅い。最後の州(スイス)は1990年にやっと婦人参政権を認めたというから、信じられない。それって最近じゃないですか。でも、もっと信じられないのは1945年には婦人参政権をゲットした日本がジェンダーギャップ指数で年々順位を落として120位だってのに、スイスはランクを上げ続けて今年は上位10位にランクインしたってことだ。くそっ。くそっ、くそっ。