Vol.14 台湾 ー すぐそこの、輝いてる国
台湾を訪れたのは4回。最初は2011年の夏、最後は2019年の秋の10日間ほどだった。いやあ、もう、はるかむか〜しの気がするけど。
飛行機で3時間ちょっと。時差がたったの1時間ってのもありがたい。九州くらいの面積に、人口は九州の2倍程度らしいけど、なんとなく全体像がつかみやすい。
海外に「仕事で行く」というとコンサートやライブの音楽関係がほとんどだが、台湾には行く時はなぜか私は「体操の先生」なのだった。英国で勉強した時に、シュタイナー学校の美術と体育の教員免許を取ったからだ。別に教員資格が欲しくて学んだわけじゃなく、彫刻科は4年、体操のコースの5年をやっていくうちに教員養成のプログラムもこなしてしまった。日本に帰ってから、粘土造形や体操のワークショップなどをやってきたのは、教えたくてというより、シュタイナーの学びを教える人があまりいないので、教えを受けたからにはお返ししなくちゃという鶴の恩返し状態で請われれば教えるをやってきた。特にシュタイナー学校独特のボートマー体操というのは、教えられるようになるまでに時間がかかること、そもそも世界的にもその体操を教えるコースがほとんどないという現実がある。日本国内には私以外に教えられる人はほぼいない。
そこで話を聞きつけた熱心な台湾の人智学*1 協会からオファーがあり、最初の2回は大人(主に教師)を対象に、あとの2回は10歳から15歳くらいの台湾中から集まるシュタイナー学校の生徒たちの合宿みたいなものをやってきた。まるまる1週間、朝から夕方までずっと体育。シュタイナー系のものであるからして、日本の体育なんかとはまるで違う。体操も空間認識のためのものであって、ゲームもたくさんやるけど、スポーツ的勝ち負けは基準にならない。詳しいことが知りたい方は……どうしよう。まあ、そのうち。
けっこう楽しい。教えるのが好きなんじゃないの?と錯覚してしまうほどだ。やばい。
シュタイナー学校の子どもたちは(私見だけど)どの国でものびのびして屈託がなく素直な子が多い。そして台湾では特にそれを強く感じる。
台湾という国(私は国として認識している)は、若くて初々しい。ここでは民主主義も若いので、変えていく、変わっていくということにも偏見がない。日本のようにシステムがしっかり構築されて長く経った国にはない柔軟さが、キラキラとまぶしい。日本は何かを変える、という前に「頑張ったって、何も変わらないじゃないの?」という諦めが蔓延している。台湾では2020年の総統選*2 で、20代の投票率は約90%だったというから、若い人たちがいかに未来に希望を持っているかがわかる。
その昔に日本が統治していたなどの歴史のイメージもあって、日本人の台湾観は古臭い。台湾がすでに先進国であり、民主主義指数や生活の質の高さ、ジェンダー平等指数など、日本とは大きく差を広げてアジアのトップとなっていることを日本人は認識してない。オードリー・タン(台湾のデジタル相)が突出しているのではなく、オードリー・タンを生み出しその才を生かせる土壌ができあがっているということだ。
数年おきに台北を見ているが、毎回すごいスピードで変貌を遂げている。前回は、古い街並みを超オシャレにリニューアルしているエリアを散策した。裏原?代官山?
帰りのタクシーの運転手さんは、「日本には30回くらい行ってるよ。この前は家族を連れて北海道でスキーをした。でも一番好きなのは京都だね」とうれしそうに話してくれた。日本のタクシーの運転手で台湾に30回も行けるほど(時には家族連れで)儲かっている人、いるのかしら。
台湾の友人たちは会うといつも日本が大好きだと言う。「だって、どこもすごくきれいだよね。清潔だし」。そうだね。悲しいことに、もうそのくらいしか日本は自慢できるところはないんだよね。
*****
*1 人智学=アントロポゾフィー:哲学者・神秘思想家のR.シュタイナーが自身の思想を指して使った言葉。「人間の叡智」を意味する
*2 総統選=全体を統治する(国家)元首を選ぶ選挙