Vol.6 スイス — 魅力的な街と絶景のアルプス
さて、怒っていてもしょうがない。美しいヨーロッパの都市、チューリッヒの話もしとかなくちゃね。
スイス最大の都市と言っても、市街は東京のように無尽蔵にだだっ広くもなく、何度も行けば路面電車にも慣れて、好きなコースも決まってくる。あまり時間がない時は、古典からモダンまで充実した収集で知られるチューリッヒ美術館へ行く。のんびりしたい時は、中央駅からにぎやかな目抜き通りを抜けてすぐの大きな湖(湖なのに海と呼ばれている)の、遊覧船でなく普通の人が通勤や通学に使う小さなフェリーで、各駅停車の船旅を楽しむのも悪くない。しかし何といっても、オールドタウンをぶらつくのがいいんだよねー。

ヨーロッパの古い都市には、だいたいどこでもオールドタウン「旧市街」がある。アムステルダムの旧市街などは観光客に乗っ取られて魚市場かと思うほどだけど、チューリッヒでは大きな石のチェス盤のあるリンデンホフの丘を中心に、おっとりした旧市街が残っている。チェーンの店などほとんどなくて、品のいいセレクトショップや骨董店、注文服専門のブティック、テーブル数の少ないレストランや居心地のいいカフェがあったりする。もちろん知的な静けさが音楽のように流れている。
しかし、数日以上も滞在するとなると、街歩きばかりでは物足りない。荷物を置いてちょっとした旅に出かけたりもする。電車に乗って車窓からの風景を眺めるだけでも満腹感はある。あっちも絶景!こっちも絶景!なんだから。写真を撮る気なんてすぐに失せる。チーズの町グリュニエールにフォンデュを食べに行ったり、ハイジの村マイエンフェルトに出かけたりもした。国全体が観光地みたいなもんなんですよ。
考えてみるとうんざりするほどアルプスを歩いた。実のところ、登山やトレッキング、スキーやキャンプなどにケほどの興味もない私である。それまで一度として山遊びなどやったことのない私である。これは運命の不思議?いや皮肉なのか? 日本でだったら絶対にイヤ!なんですけど。暗いし、険しいし。登山て、ぼってりした靴とか履くんですよね。
だけどスイスの山というのは歩きやすい。本当によく整備されている。小さな子どもからお年寄りまで無理なく歩けるコースがたくさんある。息子が小学校に入る前、よくヨーロッパのツアーにも連れて行ったがアルプスは定番のコースだった。そしてまあ登山鉄道の充実たるや!3千メートル超を電車で登れちゃうのってさ、いいのか!?

日本人が大挙して押しかけるので有名なユングフラウヨッホは、車中の急勾配でずり落ちそうになりながら「トンネルを抜けると氷河だった」である。鉄道ばかりではない。イタリア側のサンモリッツの近くディアヴォレッツァに登ったときは「ロープウェイを降りたら氷河だった」。このとき、ロープウェイに乗る前には気温30°Cもあったのに、山頂で降りたら瞬間冷凍されそうになった。急勾配を1分で100m昇るロープウェイって何なの!? 高所恐怖症の私を殺す気か!と思いました。それにしても、なぜ乗ってしまうのかなあ。まあ、来ちゃったんだし…、という超消極的理由によって私のアルプスの思い出は作られているね。
展望台のデッキチェアに寝そべってビールを飲みつつ、ピッケル片手に連なって氷河を歩く人たちを眺める。肉眼でもよく見える。それほど遠くもない。すぐそこって感じで見えるんだもん。おおっ、ロープでつながって氷壁を登っていくぞー!映画見てるみたい。並んだ隣の椅子に目をやると、上半身水着みたいな格好で日光浴してる美女。いったいいまの季節は?私はどこにいるの? やや頭を混乱させながら、こういうのもスイスアルプスの楽しみ方であるのか、と納得したりする。
