Vol.17 イギリス ー 英国人は意地悪なのかへそ曲がりか
ドライブを続けてお腹がすいたらパブに入る。夜のパブは飲むための場所だが、昼間はパブ・ランチがある。戸外や地下にファミリー向けのテーブルもあって、子供用の椅子も備えてあったりする。あつあつのベイクドポテトはそれだけでご馳走だし、滋味のあるラムステーキや季節のキノコのホイル包み焼きなど、なかなか凝った料理を出すところも多く、「おいしいパブ」を見つけるのもドライブの楽しみのひとつだった。
イギリスはおいしくない、とはよく言われることだが、実はそんなことはない。イギリス人は大声でここはおいしいですよー、なんて宣伝するのを恥と考える。こっそりひっそり知る人ぞ知るというのが尊ばれる。この国では「観光客は簡単にうまいものにありつけない」というシステムになっているのだ。にんまり笑うイギリス人たちのしたり顔が目に浮かぶ。
ある日、息子のクラスメイトの母親であるレイチェルとお茶をしているとき、家の話になった。増築しようとしているけど、その許可がなかなか下りないから困るという。この国では、つくりあげてきた美しさを「守る」ということに、恐ろしいほど執着する。東の果て(どこを中心として「果て」というのかわかんないけど)にある「何でも新しいものが大好き!」という国とは全然違う。外壁に塗るペンキの色でさえも制限される。自分のウチなのに増改築もままならぬ。下手すると庭だって作れない。
昔、TV番組でチャールズ皇太子がテームズ川下りをしながら「この建物、あのビルディング、そしてあれとこれとそれがロンドンの景観を醜くしている!」と激しい口調で名指しで現代建築批判をしたことがあった。大半の国民は「そうだ、そうだ!わっしょいわっしょい!」と同調した。
ストーンヘンジのような世界的歴史的観光地であっても、であるからこそかもしれないが、まわりには何もない。草地が漠々と広がっているだけで、多分、建物は建てられない規制があるのだろう。だからこそ巨石の神殿を古への思いを馳せて眺めることができる。みやげもの屋やプレハブの建物やサラリーローンとかイチゴ大福の広告ボードが借景になったのでは、百年の恋もいっぺんに覚めるというものだ。(英国では田園地域では広告看板自体が禁止されていると思う。見たことないから)。ストーンヘンジにも管理事務所はあるが、半地下のようになっており、ヘンジをぐるりとまわっても目につかないように作られているという徹底ぶりだ。
イギリスでは、遺跡や史跡など訪ねようとしても道路標示があまりに地味で、なかなか辿り着けない。大きな看板などもない。入口とおぼしきあたりに、小さな小さな金属プレートがさりげにあるだけ。あまりたくさんの人に来てもらいたいとは思ってないのでしょう。踏み荒らされたり、落書きされたり、いたずらされるよりは、断固、来てほしくない!のでしょう。どうしても、本当に、心底、その場所を訪ねたい人オンリーに来てほしい、と英国人のあなたは思ってますよねぇ?
とはいえ、中世ロマン心をくすぐるお城など各地にあり、イギリス人だって観光するわけで、そういうところではお土産物館などもあっていろいろと売っている。ただ、日本と比べると食品は少ない。クッキーやジャム程度。ヘンリー8世饅頭とかシェークスピア煎餅とか、ありえない。なんとなくだけど、そういった歴史上の人や遺跡などを食べ物を結びつけること自体、品のない行為と思っている気がする。信じられないほどゴシップ好きで下世話なところも人一倍ある英国人なんだけどね。