Vol.3 中国ー華流の沼は深〜い(北京)

 沼だ。ホワの沼。フワじゃない、ホワ。韓(はん)じゃない、華(ほわ)。華流の中でも時代劇。歴史物、宮廷劇、武侠物、ラブ史劇、神仙ファンタジー……。私ったら、中国時代劇ドラマの泥沼にどっぷりはまり込んでる〜! だってびゅんびゅん空を飛ぶんだもん(そこ?)。比べれば猿之助の宙乗りなんて稚戯にすぎんだろう。ワイヤーワークの凄さは世界一。アクロバットも世界一。武術の伝統世界一。その上に最新のCG技術満載。うなるほどあるカネを、中国4千年の歴史を、ぐわぐわっとミックスしてドラマに注入したらどうなる! さあさあ、どうなる! いやあ、すごいものが出来上がっちまうという寸法だ。

 TVドラマ、ウェブドラマに50億、100億円予算というのもザラにある。東京ドーム何倍もある大きな宮殿のセット。ロケ地は大草原、大砂漠、奇観の山林。疾走する群馬(ちゃんと馬に乗れる役者がごまんといる!)。1本のドラマの主役の衣装だけで200着、だとか? めまいがする豪華絢爛、迫力満点、尋常でないスケール感。時間の流れ方が、アメリカやヨーロッパ、日本や韓国ドラマとは全然違う。神仙もの(神様や仙人が出てくるファンタジー)を1作(40分×50話くらいが普通)通して見てしまうと、100歳は年を取った気になる。(それ、いいのか?)その上、強い女、頭のいい女、根性のある女、カッコいい女が主役を張っている作品が山ほどある。これを見らずにおりゃりょーかっ!

 歴史劇なんかもいい。『孔子(春秋)』は孔子の伝記であるから紀元前500年くらいの話。周(という国)の宮廷の図書館で本(竹を紐で綴じた本)を読み漁る場面が出てきたけど、そのころ日本は弥生式土器時代? 聖徳太子は7世紀くらいの人だけど、てことは1200年くらい文化に差があったのか! 溺れても難破しても石にかじりついても僧侶や遣唐使や遣隋使が中国に焦がれていた気持ちわかるぅ。タイムマシンに乗って未来世界に行くって感覚だったんだろう。

 物質文明から逃れられないのは共産国の中国だってお互い様で、一気に時間の早回しで、中国はいまや日本人の人口に匹敵するほどの富裕層を抱えているとのことだ。香港のこと、新疆ウイグル自治区のことなど考えると不愉快が爆発寸前、ギリギリと歯軋りをしてしまうのだが、一つの国にはいろんな面がある。光と闇、まとめて総合評価、なんてできるわけがない。

 十数年前、突然「大っきなスケールなものをみてみたい」と思い立ち、北京に万里の長城を見に行った。大失敗だったなあ、あの計画は。大きなものは近寄っちゃダメなんだ。手作り感満載のでこぼこした壁の上の道を数時間歩いたところで、万里の長城を味わうことはできない。せめて1週間、1ヶ月は黙念と歩き続けないと。人工衛星から見た写真の方がよっぽど凄さを実感できるってこと。


ユネスコの文化遺産である万里の長城の長さは2万キロ以上あるそうだ!

 紫禁城にも行ってみたが、史実の重み、宮廷の壮麗さに驚くというよりも、あまりにだだっぴろい場内を歩き疲れてよれよれになるというていたらく。

 中国は、うねる時代のあの時その時で私を興奮させる。気の遠くなるような歴史から、尋常ではない深〜いものが生まれた。広くて地続きで多民族が虎視淡々と睨み合う(いまでも)。その地での天下統一の夢は、織田信長の陣取り合戦レベルではないのである。そうなると基本、瑣末なことに取り合ってはいられない。変化の度合いも極端だし桁違いになるんだなあ。

 コロナが明けたら華流撮影現場訪問の旅なんていいかも、という恐るべき考えが頭をよぎったが、いやあ、ないない。(中国政府の許可がもらえたら)自家用ジェットを乗り回し各地へ飛び(中国政府の許可がもらえたら)ヘリコプターか気球にでも乗り換え(中国政府の許可がもらえたら)上空からロケ現場を見るというようなプランじゃなきゃ……。
 ああもうダメだ。思っただけでどっと疲れた。所詮、私はちっちゃい日本人なのよねー。


世界最大の木造建築群が並んでいる紫禁城(故宮)。
敷地面積は72ヘクタール!こちらもユネスコの文化遺産。


 

Vol.2 スペイン/バルセロナ(2021年3月29日)
Vol.1 スペイン/バルセロナーパリ(2021年3月18日)

天鼓プロフィール/アーティスト, パフォーマー, ミュージシャン

1979年女5人のバンド『水玉消防団』で音楽を開始。80年代からバンド活動と並行してヴォイス・パフォーマーとしてニューヨークやヨーロッパで数多くの音楽フェスに招聘される。アルバムは日本・アメリカ・スイス・フランス・香港などでリリース。92〜99年、アーティスト活動を続けながら息子を連れ英国留学。シュタイナー理論による4年間の彫刻(アート)コースやスピーチ&ドラマ、空間認識のムーブメントなどを学ぶ。パフォーマンスや美術分野での制作、ヴォイスや彫塑、ムーブメントのワークショップも多い。すきあらば陶芸、有機大豆での豆腐づくり(売るほど)、写真などを楽しんでいる。

 

HOME