心なごみませ  第45回

「ゆきちゃんの風邪」

山元加津子(在日石川人)

 ゆきちゃんはそのとき、少し風邪引きでした。けれど、ゆきちゃんは熱があっても、給食も食べたいし、勉強もしたいし、みんなともいたいなあと思ってくれていたのだと思います。「熱は測りません」(熱があったら帰らなくちゃならないから)「給食食べる」「牛乳飲む」と私たちがどんなに熱をはかって、なかったら、一緒に給食食べようね、牛乳も飲もうねと言い続けても、顔を真っ赤にして、不安そうに同じ言葉を言い続けていました。

 そんなときに、一馬くんはゆきちゃんの背中をポンポンとたたいて顔をのぞき込んで言いました。

「おまえなあ、無理するなやひどかったらすぐ言えよ。先生がおらんかったら、俺に言え。俺がなんとかしてやるから。な、わかったか」

 一馬くんのお母さんが、いつのときだったか、「一馬は、学校で乱暴な言葉を使ったりしないでしょうか?」と心配をされていたことがありました。たぶん、お友達のことを「おまえ」と言うこと、自分のことを「俺」って言うことなどをそのとき気にしておられたのだと思います。でも、私は思うのです。一馬くんが、「おまえなあ」って声をかけてくれるのは、「俺な」って言ってくれるのは、心底、ゆきちゃんやクラスのみんなや私たちに心を許してくれるから・・大切なことはどんなことでしょう。それは、お互いに信頼し合って、そして、お互いを思いやること。いつも誠実に接し合うこと。それが何より大切って思うのです。一馬くんの優しさがゆきちゃんの緊張した心を柔らかくしてくれたようです。ゆきちゃんは熱を測りに行ってくれました。体温は38,3度でその日は帰ることになったのだけど、そのままだったら大変でした。一馬くん、本当にありがとう。