心なごみませ  第33回

「自分が自分だから伝えられることを伝えたい」

山元加津子(在日石川人)

 卒業生のまことくんから電話がありました。
 勤め先で、職員さんのお財布がなくなり、まことくんが疑われたというのです。
 まことくんは「もちろん、僕はそんなこと、していない」と言いました。
 私も彼がそんなことをしていないということは、決して疑いのないことだと知っています。
 彼とは3年間一緒だったのだけど、いつも、とても誠実で、正義感のあふれたとても素敵な人なのです。けっしてしていない・・

 どうして彼を疑うのですかと上司の方にお尋ねしたら、
「彼が来るまで、お金がなくなったことがなかった。そして、彼は養護学校を卒業している。そして彼は障害者雇用だから、一月4万円しかもらっていなくて、お金が足りないはずだから・・」
 
 何かことが起きたとき、思いは必ず伝えていかなければならないと思います。譲れないことは譲れない。だから、彼を疑うことは間違っていたと思うということは伝えていかなくてはいかないと思います。
 でも、私は、どんなときも、争う姿勢でいることはいいことではないように思うのです。

 
 結局、お金は出てきました。職員さんの勘違いだったのです。そして、上司の方も同僚の職員さんもまことくんにすまなかったと謝られたそうで、そして私にも電話がありました。彼の疑いが晴れたことはとてもうれしくよかったけれど、けれど、最初に疑われたということはとても悲しいことでした。

 今のようなことが起きるのは、学校のこどもたちのことが社会の中でまだまだ理解されていないからじゃないかと思います。
 私はもっともっと世の中の方にこどもたちのことを知ってもらいたいのです。だって私は学校にいて、こどもたちといる・・こどもたちのことを伝えられるのは、学校にいるわたしだからなんだもの。
 いったい何ができるだろう・・今までも本を書いたり、お話させていただいたりしてるけど、でも、それだけではだめなんだ・・。それで、ホームページで、音声で伝えるポッドキャストというのをはじめました。
 人はみんなそれぞれの場所で生きている・・お店屋さんはお店屋さんでないと伝えられないことがある、運転手さんは運転手さんでないと伝えられないことがある。それぞれの人にはそれぞれの人しか伝えられないことがある。私には私しか伝えられないことがあり、あなたにはあなたしか伝えられないことがある。
そ れはきっと、本当に大きな意味があることのように思います。
 その人でしか経験できないことを、伝えていく・・それは人がそれぞれいろいろに生まれてくる意味でもあると思います。