心なごみませ  第34回

「特別に好き。」

山元加津子(在日石川人)

 隣の隣のクラスのなっちゃんが教室にやってきて、私に聞いてくれました。
「かっこちゃん、なーこのこと、特別に好き?」
「特別?」
「そうや。なーこのこと、スペシャルに好きか?」
「もちろんやよ。なーちゃんのこと、特別に好き」
「じゃあ、クラスのゆきちゃんやかずくんやりっちゃんは、普通なんやね」
「ううん、なーちゃん、そうじゃないよ。ゆきちゃんはゆきちゃんで特別に好きだよ。りっちゃんがまた特別にすきやし、かずくんも特別に好きやよ」
なーちゃんは、ちょっと困った顔をしました。
「だから、なーちゃんのことどれくらい好きなんやって」
「特別に特別に大好きだよ」
 だってそうなのです。なーちゃんのこと、特別に大好き。だけど、ゆきちゃんのこと、特別に好きだし、かずくんのことも特別に好き。そしてりっちゃんも特別に好きなんですもの。
「それやったらよくわからんわ。なーこだけ特別に好きなんじゃないんか」
「そうだよ、なーちゃんは特別に好き」
「なら、みんなは普通に好きなんやね」
「違うよ。みんなも一人一人特別に好きだよ」
 またなーちゃんはちょっと困った顔をしました。
「もし、みんながおまんじゅう10コあげるんやったら、なーこには何個くれる?どれだけでもいっぱいあって、それで食べても太らんとしたら、なーこに何個くれる?」
「なーちゃんは何個ほしいの?」
「なーこは、20個ほしいわ」
「なあんだ、たった20個でいいの?ほんなら、20個なーちゃんにあげるよ」
 だって、太らなくて、どれだけでもあるのなら、私、特別に大好きななーちゃんに、ほしいだけあげたいです。そして、もしりっちゃんがひとつしかいらないって言ったら、りっちゃんには特別に一個だけあげたいし、ゆきちゃんが5個ほしいっていってくれたら、ゆきちゃんには特別に5個あげたいです。だって、ほら、特別に好きだもの。
 なーちゃんは、「ほっか、20個くれるんか・・ほんなら、うれしいわ」ニコニコしてなーちゃんは自分の教室に帰りかけてもう一度、私の方を向いてききました。
「かっこちゃん、なーちゃんのこと特別に好きなんか」
「そうだよ。特別だよ。なーちゃんは私のこと、特別に好き?」
「なーこ、かっこちゃんのこと、スペシャルに特別に好きや」私はうれしくて、にんまりしました。
 なーちゃんはまた一言、
「ほおか、特別なんか」と言いました。そして、鼻歌を歌いながら、教室へ帰って行きました。
 そうですよね。誰だって特別に好きでいてほしい。私もそう。好きってとてもうれしいことだから。