伊豆新聞に掲載された過去の記事からピックアップしたものです。
ここでしか読めない過去の最新アップもお楽しみに!!

 
 
 

その1 ただいま雑記を始めます
(2009年1月7日 伊豆新聞に掲載)

新年早々、私事で失礼します。ただいま還暦まっただなか。子年だから、数えではすでに一歳越えたのだが。
昨年、自分が、「村の船頭さん」と同い年、とわかった時には、少々あわてた。「今年六〇のおじいさん」と歌詞にある。「おばあさん」をどう生きるか、なんて考えたことがない。思えば、すでに始まっている老化現象のあれこれは、初めての体験ばかりで、いやおうなく生きかたの再考を迫られている感がある。さすがの私も三日ばかり思案した。そしてわかった。

暦がめぐって還ったのだから、私は子どもに戻ればいい。子どもの構えをとればいいのだ。そう目星をつけて、では、子ども時代の最大の特色は、と考えた。それはなにより無計画、明日を思い患わないことだった。
むろん子どもなりに予定はあった。眠くても起きて学校へ行くとか、午後には楽屋入りせねばならぬとか(子役だったからね)。しかし、勉強も舞台も、未来のためにするわけではなくて、いま、すべきことだからやっていた。朝、目覚めると、さあ、今日はなにして遊ぼうか、とだけ考えた。そして、とにかく、いま、やりたいことを、いま、やろうとした。「明日にしなさい」などとおとなに遮られると、口を尖らせて言った。「いまやらなくちゃ、明日、死んじゃうかもしれないじゃないの」。おとなは笑った・・・。

それが笑い話ではなくなっている。いや、それは本来、人生の真実だろう。子どもの場合、明日死ぬ確率が低いから冗談に聞こえるだけなのだ。確率が高くなったいま、私は子ども時代よりいっそう子どものように、「ただいま」を生きればいい。そうだ、そうだ!
なんのことはない、今日までの基本路線を肯定しただけだ。しかし、こう決めたら、老年という初体験を生きる度胸がついた。そんな時、伊豆新聞に、身辺雑記を連載することになったのだ。当然、題は「ただいま雑記」。読者ご同輩、どうぞよろしく。

さて、ただいま、伊豆の山中に住んでいる。目覚めて居間に出てゆくと、天気がいい日は、窓の額縁いっぱいに豊かな緑、眼下に伊東港、はるかに続く海原がある。さあ、今日はなにして遊ぼうか。原稿書きか、先日やった伊豆急全線ウォークの写真でスライドショーを作るか、海に潜ってもいいな、いや? たしか今日は仕事で東京へいくはずだったぞ、おお、電車のなかで本を読もう!

とまあ、そんな調子の日々なのですが、そもそも、どうして伊東の住人になったかというと・・・それは次回のお楽しみっ。


うちから見る伊東の街と海

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