あんなこんなそんなおんな・・・・・昔昔のその昔 第72

■自分の目と頭で確かめる■

佐古和枝(在日山陰人)

つねづね思うんですけど、千夏さんのDNAには、歴史研究者の素質も組み込まれているんですね。だから、千夏さんはただワクワクしながら興味にひかれて走っているみたいだけれど、それがちゃんと歴史研究の基本路線なのですよ。
他人の書いた本の孫引きではなく、自分で原典にあたる、というのは、歴史研究の鉄則です。だって、いくらエライ先生だって、たまには勘違いとか引用間違いとか、ないとは限りませんからね。でも、プロの研究者でも、ときどき孫引きをして、後で大恥をかくことがあります。簡単なようで、なかなかできないことでもあるのです。

考古学でいえば、発掘報告書だけをみて、論文を書くというのも、その類です。いくらミリ単位で正確に測った図面でも、現物をみると、図面とは違うとか、図面ではわからない発見があったりします。
本や絵図なら、まだ図書館でとりよせたり、インターネットで検索もできますが、考古学の遺跡や出土品は、現地まで見に行かなきゃいけない。考古学の研究は、研究室にひきこもっていては出来なくて、モノと見に行くお金と時間と体力・気力が必要なのです。だから、考古学者は貧乏ヒマなし(^_^;)
もうひとつ大切なことは、たとえ原典であっても、その正確さを他の情報で確かめる、ということです。本人の書いた記録であっても、本人の勘違いや思い込みがないとは限らない。

面白いなと思ったのは、最近の考古学は、防空壕とか軍事基地など、戦争の痕跡も遺跡として発掘調査をし、次世代に伝えていこうとしています。当然、事前に日米の軍事記録や関係者への聞き取り調査もするのですが、そんなつい近年のことでも、いろいろ勘違いがあることが、発掘調査で明らかになったりしています。だから、複数の記録や証言(つまり情報)で確かめることが必要なんですね。同時に、半世紀前の歴史復元にも、考古学は欠かせないのです。
たった1つの情報源による情報を無批判に信じてしまうということは、大本営発表を鵜呑みにするみたいな危うさがあるわけで、複数の情報源からでた情報でクロスチェックするということは、現代社会でも大切なことですよね。

とにかく、ある資料(情報)がほんとうに信じていいものかどうかを、他人の目や頭を通じてではなく、可能な限り自分の目と頭で確かめるという歴史学のトレーニングは、わけのわからぬ情報が氾濫するいまの時代をしっかり生き抜くために絶対に役に立つ! だから、しっかり歴史をベンキョーしてみろと、学生たちにハッパかけているサコです。

8月のむきばんだ遺跡より