第62回「ノーベル賞の発表があって」

山元加津子(在日石川人)

 ノーベル賞の発表があって、日本人の方が4人受賞といううれしいニュースがありました。次の日に学校にくると、しょうごくんが、「ノーベル賞ほしい?」と私に突然聞くのです。
「ノーベル賞ほしいか」と聞かれても、たとえば「アイスクリーム欲しいか?」と聞かれたら、「欲しいとか欲しくない」とか、自分の気持ちにあわせて、返事ができるのですが、ノーベル賞は、もう最初から欲しいとか欲しくないとか考えたことがありません。そのとおりに、「欲しいとかわからないけど、どうして?」と尋ねました。「どうしたらノーベル賞もらえる?どうしたらとれるん?」しょうごくんが重ねて聞くのです。どうしたらもらえるかもわからない私は困ってしまいました。

 でも、しょうごくんはどうして急にノーベル賞がほしくなったのかな? 何か理由があるはず。じっと待っていたら、しょうごくんがぽつりと言いました。
「お母さんがきっと喜ぶもん。お母さん、きっと涙出して喜ぶよ。賞状だけかな?お金ももらえる?」近くにいた先生が「お金もいっぱいもらえるそうだよ」と言うと、しょうごくんはまた「僕絶対に欲しい。絶対にもらいたい。どうやったらいいのかな?」とまた考えていました。
 しょうごくんはお母さんが大好き。お母さんを喜ばせたいために、もらいたいノーベル賞・・とっても素敵ですね。「本当にどうしたらもらえるかな?」とそのときはそれで話が終わったのです。

 でも、それから何時間もたって、しょうごくんがまた言いました。「かっこ先生も欲しくないのか?どうして欲しくないか僕わからない。だって お母さんが喜ぶよ」
 ああ、そうですね。どなたがもらわれても、お母さんもお父さんも、きっと大喜び。もちろん、どんなに、ありえない話であっても、百億万が一でもそれが私だったら、もちろん母はそのときは、どんなに喜ぶことでしょう。
「でもね、ノーベル賞はいただける人はすごく少なくて、とってもとってもむずかしいんだよ」と言うと、しょうごくんが今度はこう言いました。
「もしノーベル賞がもらえなくても、いつもがんばればお母さんは喜んでくれるから、かつこ先生、安心して」「ありがとう」とてもうれしい気持ちでした。しょうごくんはいつだって、お母さんやお父さんのことをとても大切にしていて、「今日はお母さんにサラダ作ってあげたよ」「今日はお手伝いをしたよ。お母さん喜ぶから」と話してくれます。
 そうだ、私も母が喜ぶことしたいな。いっぱいしたいな。何かしたいな・・母が喜ぶなら、何でもしたいな。何だってしたいなあとそう思った日でした。