心なごみませ  第5回

「雪絵ちゃんの季節」

山元加津子(在日石川人)

 12月。雪絵ちゃんの季節がやってきました。ちらちら降る雪に、ピクチャーの絵と書いて雪絵。雪絵ちゃんは12月28日生まれ。雪が降って絵のように美しい日に生まれた女の子だから、雪絵という名前なのだそうです。雪絵ちゃんとは病弱養護学校という学校で出会いました。心臓病やネフローゼなど慢性の病気を持っていて、地域の学校に通うことがむずかしい生徒さんが通っていました。雪絵ちゃんは多発性硬化症、別名MSという名前の病気を持っていました。再発するたびに、目が見えにくくなったり、手足が動きにくくなっていく病気です。
 私は雪絵ちゃんが再発するたびに、どんなに不安だろうと思って心配でたまらなくなるのです。でも雪絵ちゃんはいつも自分の力で立ち上がるのです。
「私ね、MSでよかった。もし、MSじゃなくて、障害をもたなかったら、今気がつけた大切なことに気がついていないよ。そんな自分より、気がついている今の自分の方が好きだから。それにね、もしMSでなかったら、今、まわりにいる人に出会えなかったよ。かっこちゃんにも会えなかった。もし、MSでなかったら、他の素敵な人に出会えたかもしれないけれど、私は今、まわりにいる人がいい。かっこちゃんがいい。だからそれでよかった。せっかくのこの自分で生まれたのだもの、目が見えなくなっても手や足が動かなくなっても、息ができなくなって人工呼吸器をつけなくちゃならなくなっても、MSの雪絵を好きでいるよ。MSの雪絵を決して後悔しないよ。
 雪絵ちゃんと私は、親友という言葉ではいいつくせないほど、仲良しだったと思います。毎日のように、電話をしたり、あったり、メールをしたり・・
 雪絵ちゃんは去年の12月26日に、亡くなりました。お母さんは「先生、雪絵はあっぱれな生き方だったと思います。ほとんど家と病院だけの生活だったのに、雪絵の本(「幸せ気分」、「お日様気分」ともに魔女の翼から)などを通して、全国のたくさんの方とお友達になれて、自分たちでは経験できなかったこともいっぱいしました。先生、あの子は明日お通夜、あさってはお葬式。お誕生日にお葬式だなんて、本当にあっぱれな子やと思います」と言われました。
 雪絵ちゃんが亡くなって、私は、雪絵ちゃんはつらい人生だっただろうか、悲しい人生だっただろうかと考えることがありました。そんなときに、雪絵ちゃんの書いた詩を見つけました。

「誕生日」
  私、今日生まれたの。1分1秒のくるいもなく、今日誕生しました。
   少しでもずれていたら、今頃健康だったかもしれない。
   今の人生を送るには、1分1秒のくるいもなく生まれてこなければ
   いけなかったの。
   結構これって難しいんだよ。
   12月28日、私の大好きで、大切で、しあわせな日。
   今日生まれてきて大成功!
  「すのう」に生まれてきて、これもまた大成功!

 「すのう」は雪絵ちゃんのペンネームです。「すのう」に生まれてきて、大成功、雪絵に生まれてきて本当によかった、1分1秒もくるわずに、この雪絵に生まれてきたからこそ、素敵な友だちに出会い、素晴らしい「雪絵の冒険物語」を歩んでいるよと雪絵ちゃんはきっと言いたかったのでしょう。
 私も、同じ気持ちです。私は私で大正解。私は私で大成功。私だからこそ、感じられることがあるし、私だからこそ、出会えた人がいる。私だからこそ、できることもある。私は私の人生を、力一杯、きらきら輝きながら生きていきたいと思います。そうすればきっと私の明日が、素晴らしい宇宙の明日につながっていくのに違いないのです。これは雪絵ちゃんが教えてくれた宝物。雪絵ちゃんは亡くなってもなお、ずっと生きて、いろいろな人に、宝物をプレゼントし続けてくれていると思います。