心なごみませ  第49回

「一度失敗したらだめなの?」

山元加津子(在日石川人)


 「一度失敗したら、もう、絶対にだめなの? もう取り返しがつかないの?」

 しーちゃんが悲しそうに言いました。「そんなことないよ。みんな失敗を繰り返してできるようになっているんだもの」それでもしーちゃんは首を振りました。「昔、私、悪い子だったの。人の物盗っちゃだめってわかっていたけど、つい、友達のものや、学校のものを家に持って帰ってしまったの。でも、もうしていない。悪いことだってわかったし、自分でがまんできるようになったの。だからそんなことはずっとしていない。でも、先生も、お母さんも、私のことは信じてくれてないの。『おまえは盗みをするから、一人でバスに乗せられない、目を離せない』って言うの」

 しーちゃんの悲しみが私の心の中まで入ってきたようでした。しーちゃんの顔をのぞき込むと、しーちゃんの澄んだ目が不安そうに私を見つめていました。「人間の素敵なことは、いろんなことに気がついていけることだよ。何が大切で何がいけないか、どうしたらいいか気がついていけること。そして変わっていけることだよ。私ね。こんなふうに思っているの、お互いに教えあったり、大切なことを気がつくために、人と人は出会うのじゃないかなって。それから、出来事だってそうだよ。大切なことに気がついて変わっていくために、人は出来事とも出会う。しーちゃんは昔つらいことがあってよかったね。そのために、大切なことに気がつけたんだもの。こんどはしーちゃんが大人の人に教えてあげてほしいの。人は気がついて変わっていけるんだよってこと。それにもともとしーちゃんはいい子だもの」

 私はなんとかしーちゃんが元気になってほしくて、いろんなことを言いました。それなのに、しーちゃんは泣き出してしまいました。

 次の日、しーちゃんが手紙をくれました。「かっこちゃん、私のこと、見ていてね。私、強くなる。自分を好きでいたいから」笑顔のしーちゃんを抱きしめて二人でいっぱい笑いました。