心なごみませ  第42回

「たけちゃんごめんね。」

山元加津子(在日石川人)

 たけちゃんはいつも穏やかです。たとえば、私たちが「ありがとう」とたけちゃんにお礼を言うと、たけちゃんは穏やかな笑顔で「どういたしまして」とていねいに返事をしてくれます。周りにいる人もいつもうれしい気持ちになります。けれど、秋の頃、たけちゃんは少し調子を崩していました。小さなことでいらいらしてしまったり、怒ってしまう日が続きました。私たちの性格や、そのときの気持ちは、だいたいドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンという3つのホルモンの様子で決まっているのだそうです。もしかしたら、たけちゃんはそのバランスがそのとき、少し崩れていたのかもしれません。それで、そのとき、たけちゃんは少しだけお薬の力を借りました。すぐにたけちゃんはいつものおだやかなたけちゃんを取り戻すことができました。

 私たちの気持ちや性格というものは、自分の力の及ぶところではないのかもしれません。与えられたものが大きいのですね。その自分の力の及ばないことをもし、他から強く責めらるようなことがあったら、それはどんなに悲しいことでしょう。私がもしそうだったら、自分自身がダメだと言われた気がして、すごく悲しく、つらいと思います。自分で自分の性格を選べないのに、私たちは、子供たちの性格をせめてしまいがちのような気がします。子供たちがいけないことをしたら、しからなければならないこともあると思います。けれど、忘れてはいけないことがあると思うのです。たとえば、掃除が苦手な子供に、「いつもきれいに」と言うとします。最初から簡単にきれいにしていられる人はそんなに苦労しなくてもいいけれど、それが簡単じゃない人は、何倍も何倍も苦労して努力して私たちの前にいてくれるんだということです。それに気がついたときに、子供たちがそして、自分自身さえも、いとおしくて仕方がありませんでした。