心なごみませ  第23回

「保健体育の授業」

山元加津子(在日石川人)

 えりかちゃんのおねえちゃんが電話をくれました。「学校の保健体育の授業で今日とても悲しかった・・悲しいというかもう怒ってるって感じなの。習ったことがすごく嫌だったし変だったから、そのことを学校の先生に上手に話したいから助けてほしいの」
 えりかちゃんはとっても明るくておちゃめで歌の大好きなかわいいダウン症の女の子です。おねえちゃんはそんなえりかちゃんが可愛くてしかたがないのです。おねえちゃんは「私、えりかが生まれてきてくれて本当によかった・・・だってすごく可愛いんだもの。えりかが赤ん坊の時なんて、お母さんより私の方がミルク上げる回数もお風呂入れる回数も多かったんだよ」って話してくれていたのです。実際に、えりかちゃんは家族のみんなからとても愛されて大事に大事に育てられてきました。
 そんなおねえちゃんが保健体育の授業で、「母親の年齢が35歳をすぎるとダウン症の子供が産まれる確率がぐっと増えます。だから、やっぱり女性は遅くとも30までに結婚して子供生んだ方がいいなあ」と先生が言われたことが、えりかちゃんのおねえちゃんには納得いかなかったのです。「それじゃあ、まるでダウン症の子は生まれてこない方がいいみたいじゃない。私はえりかがダウン症でなくっても可愛いかったかもしれない。だけどえりかは現実にダウン症なんだし、でもダウン症だろうとそうでなかろうとどっちだろうとえりかはえりかなんだし、家中のアイドルで、みんなえりかがそのままで大好きなわけだから、その言い方やっぱりすごくひっかかるんだよね。その話しはえりかには絶対に聞かせられないよ。自分の存在が、他の人より劣るみたいに言われるのって、すごく悲しいことだよ。もし生まれてこない方がよかったんだなんて思ったとしたら、私だったら生きていたくなくなっちゃうかもしれない。そんなの絶対に許せないよ。だから、先生にその言い方はすごく間違っているんだって気がついてほしいんだ。」
 私ははっとしました。私も中学校の保健体育で同じことを習いました。そして先生はやっぱり「35歳になる前に赤ちゃんは生んだ方がいい」と言われた覚えがあるのです。そのときは私、その話のおかしさに少しも気がつきませんでした。世の中にはいろいろな人がいて、どんな人が劣っていて、どんな人がすぐれているなんてことけっして言えないのに・・そうですよね。おねえちゃんはえりかちゃんのことが大好きで、生まれてきてくれて本当によかった・・うれしいって思ってるからその大切なことに気が付けたのかなと思いました。