心なごみませ  第16回

「宝物の消しゴム」

山元加津子(在日石川人)

 教育実習をさせていただいた小学校の指導教官の先生からファックスをいただきました。
 とてもとても驚きました。だってもう本当に昔のことなのです。たった2週間の実習でした。でも先生は私のことを覚えていてくださって、教員の名簿録を調べてくださってファックスの番号を見つけて送ってくださったのでした。先生は私のすっかり忘れている授業のことを書いてくださっていました。「クラスにひとり、週に一回、他の学校にある仲良し学級に通っている生徒がいた。僕はその子がどんな授業からもはずれてしまっていることをしょうがないことだと思っていた。彼はいつも独り言を言っていて僕はその独り言に耳を傾けることを忘れていたのに、君は最初の国語の授業で彼の独り言をとりあげて『素敵!!今ちょっと聞こえたけれど、もう一回教えて』と言って拍手して心から彼の独り言を喜んでいたね。そのあと彼はなんと始めて自分から手をあげて発表した。答えが違っていたのに、君はまた、『どうしてそう思ったの?わあ、素敵!すごい!!』と言ったんだよ。そのあと、また彼が手をあがて答えがあっていたとき、クラスのみんなが拍手をした。
 みんなは僕はそのとき泣いていたよ」と書いてくださってありました。私は彼のことを少し覚えています。とてもやさしい男の子で、私の手をぎゅっとにぎって「行かないで」って言ってくれたのです。使っていたけしごむをプレゼントしてくれたことも覚えています。先生は「『素敵』という言葉を僕も使いたいと思ったけれど、男の言葉じゃない気がして、すごいぞすごいぞって言うようになったよ」とも書いてくださっていました。たぶん、私の初めての授業は本当はめちゃくちゃだったろうと思います。最初の授業で、とてもとてもあがっていました。何をおしゃべりしたかも覚えていないほどで、終わってから大きな息をして、ああ、やっと息が出きたと思ったほどでした。私のことですもの、きっと失敗もいっぱいあったのだと思います。でも先生はそのことは少しも言わずに、いいところだけ書いてくださったのだと思います。