43回  米軍基地は皇居あとに

田中優子(在日横浜人)

民主党政権には失望したくなかった。鳩山さんも小沢さんも、だいたい想像していたとおりだったので、あまり落胆はない。もっとも失望したのは、平野官房長官である。あの地味さ、まじめさ、少しも目立とうとしないところが、「しっかりした考えをもってそうな」と思ったのが間違いだった。しっかりしているのは権威主義の姿勢だけなのだと、あの発言で気づいた。

「一つの民意としてあるのだろうが、そのことも斟酌(しんしゃく)してやらなければいけないという理由はない」というあれである。

「斟酌してやる」という言い方を、対等な他人に対してできるだろうか。これは、「お前なんぞ、分かってなんかやらなくてもいい」と言っているのである。王様が家来に、親父が不良息子に言うような言い方だ。こういう場合、ふつうの大人なら、「一つの民意として斟酌すべきであり、充分に理解できるところではありますが、しかし国家と国家の約束というものが一方にありまして、よんどころないこの事情をどう皆さんと一緒に乗り越えてゆこうかと、私は苦慮しているのであります。そこで、やはり、ゼロベースで考えるという当初の方針を、この選挙結果の後にも、政府としては貫かなければならないところが、私としても、何とも辛い気持ちであるのですが」とか何とか、私でさえ作文できちゃう。政治家だったら、そのくらいの挨拶しろよ!

ところで、普天間をどこに移設するか、である。一緒にテレビを見ていた老母が突然言った。「皇居がいいんじゃなーい?広いし。あの人たち、京都に行ってしまえばいいしね」──「あの人たち」とは、むろん天皇ご一家のことである。この直前、私が「地域に持ってゆこうとするのがおかしい」という話をしていたその流れではあったが、それにしても皇居とは。
がこれは、いいアイデアである。誰もが幸せになる可能性がある。まず天皇家は京都に帰る。そして宮内庁の希望どおり、今までより暇になる。誰もいなくなった皇居を基地として整備し、普天間だけでなく、沖縄の米軍はすべて引っ越してくる。しかし飛行機の騒音で国会運営ができないから、首都は仙台に移転して、農業の再生に力を入れ、東北の活性化に一役買う。沖縄はアジアのハブ空港を整備し、アジアの拠点として、様々な国際会議の場所となる。

東京ではアメリカ兵がそのあたりに暮らしたり飲み歩いたり事故を起こしたりするうちに、東京に住みたくなくなる人が続出して、周辺に出て行く。企業も次々と引っ越す。地方の過疎化は解決し、東京一極集中はなくなる。東京都民がいくらこの案に反対しても「斟酌してやらなければいけないという理由はない」と突っぱねる。
日本人よりアメリカ大統領の気持ちを斟酌したいのなら、それほど日本の存在にアメリカ軍が不可欠なら、皇居ぐらいくれてやってもいいのではないだろうか。それがいやだというのなら、本当は必要ではないということなのだから、基地はすべてなくせばよい。