29回  拝啓・麻生太郎様

田中優子(在日横浜人)

 麻生太郎様、多くの人が年を越えるのに難儀している今日このごろ、あなた様はたいへんお元気の様子で、かつ毎日が楽しそうで、なによりです。「趣味の総理」とお聞きしましたが、なるほどそのとおりなのでしょうね。総理とクレー射撃とどちらが面白いですか? クレー射撃は玉代に当時で300万円ほど使ったそうで、今なら億の単位でしょうか。「それだけ使えば勝てるだろう」とおっしゃる方もおられますから、今度のご趣味を獲得するについても、だいぶお使いになったことでしょう。そうでもなければ、これほど危険な選択を、あの賢い自民党の方々がする道理もありません。

 私は12月8日におこなった大学の講義で、「日本語」について学生たちに話しました。本当に日本語は難しいです。漢音、呉音その他様々な読み方で表記され、その漢字の複数の音と、やまと言葉とを組み合わせ、私たち日本人は日々の訓練でとっさに使えるようにしています。それこそが日本人の能力です。
 授業の最後に私は麻生様を賞賛しました。踏むという文字は確かに和語ではフムと読みます。中国が嫌いな麻生様は悩まれ、和語でフ……と言いかけて、やはり中国も大切だと思いシュウと結んだのです。きっと。ふつうの日本人はそういう深慮をいたしません。ところで、あなたが首相になったために、日本人はさらに自虐的になりました。私はハタ、と気付いたのです。「自虐史観」とは実は「自虐私感」で、自民党政権下の日本人の状況を言うのですね。あなたは日々、さまざまなことに気付かせてくれます。

 それほどの教養と深い苦悩をお持ちのあなたは、ますます言いよどみが多くなり、12月8日の支持率20%台前半までの急落を受けて「景気対策、なかんずく雇用対策のところが不十分だという意見なんだというように、私自身は、そう思っていますんで、きちんとした政策立案をあげて、それに答えていく」と、素晴らしい明確なお答えでした。次の日、「今日新たに政府は雇用対策をまとめられましたが、狙いについてお聞かせください。」という記者の質問に、次のようにお答えになりました。

「あのー、新たに政府、政府として、きちんとした雇用対策というものが、緊急の課題として、我々は検討すべきではないかと。なかんずく、いわゆる2次補正というようなことになってくると、年内の話でいきますと、少なくとも今、時間がいきなり短縮された方々(※雇い止めされた非正規労働者らを指すと思われる)に、3日で出ろとかいう話になると、そら県外からそこに来てる人たちもいますから、そういった意味では、そこの企業に対して、今後とも、少なくとも残っていられるようにさせてくれと。少なくとも直ちに年内に出ろというような話ではなくて、出ら、いられるようにしてもらいたい。少なくとも、それに関して、直ちに後に人が来るあてがないと思われますから、そういった意味ではしてもらいたい。また、借り上げ住宅の場合がありますから、その場合にも、いろいろなことを考えないけませんが、それに対しては、残してもらうというのを条件に、政府として補助、企業に対してしかるべき補助をするから、そちらも直ちにいうことはやめてもらいたいとか、雇用促進事業団っていうの、事業だっけ、雇用促進事業団(※現在は雇用・能力開発機構)の持ったところで、あれ(※雇用促進住宅を指すと思われる)、廃止になる予定のあれがありますから、あれ、確か1万2、3千戸あったと思ったな。それに対しては、新たに入居をしてもいい。また今出なくちゃいけないことになってる人たちは、いるようにしたらいい、入れるようにしたらいい、今入ってる人は直ちに出なくてもいい等々いろんな、あのー、個別のところを、各省いろいろ持っておられるところがあると思いますんで、そういったものを年内の雇用対策として考えたらどうだ、どうだという話をした。うーん、なんかいろいろ言いましたね」(朝日新聞の「首相ぶらさがり」より。※注も朝日新聞)

 と、なんかいろいろ言ってましたが、上記のように党の中で話してちゃんと話が通じる、というのは、自民党の方々は実に頭がいいですね。たいていの人はわからないです。自民党の中で何十回も繰り返されたトウシュウという言葉をあなたが聞いていなかったように、もしかしたら、誰も聞いていなかったのかも知れませんが……。ともかく、おかげさまで今の日本人は戦時中と違って、この崩壊現象を目の当たりにしています。隠しようもなく飾りようもなく、壊れて行くのが見えるのです。壊れて行くのが日本になるのか、自民党だけになるのかは、有権者にまかせられています。良いお年を。