第319回 昨今の大学事情

佐古和枝(在日山陰人)

新学期が始まりました。私の勤務校の山奥のキャンパスは、この4月から街中に引っ越しました。山奥のキャンパスは、蝶々が飛んだりドングリがたくさん拾えたり、なかなか楽しかったのですが、授業の時間帯を逃すと1時間に1本しかバスがないような田舎でした。この先、こんな田舎に若者が来てくれるかと、大学側も心配したようです。

実は、「2018年問題」といって、今年から18歳以下の人口が急減期に入ります。18歳人口は、団塊の世代の子供達が18歳を迎えた1992年の205万人をピークに減り続け、2014年は118万人、そして2031年には99万人まで減少すると予測されています。だから、国公立・私立を問わず、かなり以前からどこの大学も生き残りをかけて、学部学科を再編成したり、キャンパスをリニューアルしたりなど、必死に魅力アップに取り組んできました。わが校の引っ越しも、それです。

少子化傾向はわかっていたけど、進学率は上昇しているということで、文科省は私立大学の新設をどんどん認可して、1992年に523校だった大学は、18歳人口がほぼ半減した2014年には781校まで増えました。変ですよね。だから、すでに2007年には、大学・短大の定員と大学進学希望者がほぼ同数となり、えり好みさえしなければ、誰でも大学生になれる「大学全入時代」となりました。

大学は全入で、大学は魅力アップ!それは素晴らしい・・・と喜べるような話でもないんです。全入とはいえ、受験生は希望する大学に行きたいわけだから、人気のある大学に希望者が集中し、人気のない大学は閑古鳥と、大学の2極化が進みました。そして現在、私立大学の4割が定員割れで、潰れる大学や公立化する大学も出てきています。
学生を確保するために、私立大学は入試のハードルをどんどん下げていく。1990年には44.5%だった大学の不合格率が、2015年にはなんと6.7%。昔なら大学に行かなかっただろうような子たちも「みんなが行くから」「まだ働きたくないから」と、こぞって大学に入ってくる。大学生の学力低下が言われて久しいですけれど、大学経営の立場でいえば背に腹は代えられません。

少ないパイを奪いあうなかで、それぞれの大学がブラッシュ・アップするのはいいことです。でも、問題はどこをどう磨くのか。ある経済誌が全国の進学校で調査をした結果、大学の教育内容や就職状況などから先生が薦める大学と、高校生たちに人気の大学が、かなりくい違っているようです。生徒に人気のポイントは、入試のハードルが低くて楽、オシャレな場所に立地する、キャンパスがカッコいい、学生食堂がオシャレなど、大学の本質とは無縁なところにあるようです。そうすると大学側は、図書館の書架スペースを削ってでも有名コーヒーチェーン店を入れよう、ということになったりする(;^ω^)

今後、格差社会が進行し、経済的な事情で大学に進学できない子が増えるとされ、それは少子化よりも深刻だという見方もあります。そうすると、ますます大学は定員割れですね。もちろん、必要とされないものは消えるしかなく、大学はもっと思いきった変身を迫られるのでしょうね。ああ、オソロシイ。せめて私が定年退職するまでのあと数年、このまま平穏に過ごせますように。


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