新春特別企画 サコチナの土器鑑賞会 これであなたも土器メキキ!
基本編

在日伊豆半島人=中山千夏
在日山陰人=佐古和枝

サコ サコでごさいます。
チナ チナでございます。
二人 みなさん、明けまして!
チナ めでたいかどうかは人さまざま。
サコ でもまあ、とりあえず区切りはつけませんとね。
チナ さすが、日頃、大学生を仕切ってるひとやな。はい、区切りましょう、で、私、考えました。
サコ はあ。
チナ 私らもガサツを区切って、今年は優雅にいきましょう。
サコ おお〜、いいですね。和服きてシャナリシャナリと。
チナ そこで今年の幕開けは、土器鑑賞会! どうです?
サコ えええっ?土器が「優雅」なんですかぁ〜?
チナ 実は土器メキキになりたい。
サコ ドキッ・・・
チナ ダジャレにめげずに進もう。だからね、考古学徒ではなく、粋人としてのメキキ。ひと目見て、これはいい縄文ですなあ、このナニナニモンが美しい、どこどこのナニナニですなあ、なんて言ってみたい。
サコ ほぉ〜、そうですか・・・(げげやばい。勉強不足が暴露される。話をそらそう)・・・でも、千夏さんは焼き物詳しいから、土器メ(目)もおもちでしょう?
チナ いやあ、ぜんぜん。だいたい模様の名前、縄文くらいはわかるけど、あとはどんなのがあるかはっきり知らないし。実は鑑賞会がてら、基本的なこと、教えてもらおうかと。うふふ。
サコ わ、わかりました。おつきあいします。なんでも聞いてください(汗)
チナ わあい! まず焼き物的に言うと、土器って素焼きだよね?
サコ お、そこからいきますか。そうですね。土器は釉薬を使わない素焼きです。たき火みたいにして焼く“野焼き”で作ります。
チナ しかし考えてみると、誰かが始める前は無かったわけで、たいした技術だよねえ。
サコ そのとおり。土器は、人類が利用した最古の化学反応といわれています。
チナ おお!
サコ 粘土をこねて形をつくり、乾かしただけでもカチカチに硬くなりますが、乾かしただけだと、雨が降ったりして水に浸されると形が崩れ、また元の粘土の塊に戻ってしまいます。ところが、焼くと、もう水に浸しても形は崩れない。その性質を利用して、耐水性のある容器を作った。すごい!
チナ ううむ、何時の世も発明家はいるのだなあ。
サコ おそらく、炉の周囲の土が硬くなっているとか、火事にあって焼けた土の塊とかの偶然の機会に、「一度焼けば、水に濡れても形が崩れない」ということを知ったんでしょうね。なぜ、土で容器を作ろうと思ったのか・・・出現まもない頃の土器には、籠のような模様をつけているものがあるということで、籠に粘土をはりつけるようなことが、土器作りに発展したのではないかと考えられています。やがてそれを焼くようになった、ということかと。
チナ それがガッコで習う、いわゆる縄文時代の始まりに当たるわけね。
サコ その「縄文時代の始まり」ってのが、またいろいろあって、定規で線をひくみたいにスパッとはいかないのですが、とりあえず土器の使い始めってことで(;^ω^)

 

チナ では縄文からいきますか、メキキ指南。
サコ ええっと、あ、その前に、考古学徒としてひと言。
チナ はいはい。
サコ 考古学を学ぶ時、土器をもたない旧石器時代以外の時代研究では、まずその時代の土器を学びます。土器は、調理具なので、有力者だろうが下々の民であろうが、誰もが毎日使います。だから、発掘調査でも「土器しか出なかった」というほどに、もっとも普遍的な遺物です。また、人々の生活に密着した日常品なので、人々の生活の変化を敏感に反映して、時の流れとともに、形や文様、技法が刻々と変化していく。だから、土器の変化のあり方を知っておけば、この土器がだいたいいつ頃のものかという時間の物差しになるんです。
チナ なるほど。
サコ また、土器は地域によっても特徴があります。これは山陰の土器、これは北部九州の土器、というような空間的な広がりの判断もできます。同じような土器を使っているエリアは、同じような価値観を共有しているということで、ひとつの文化圏として認識することができます。だから土器の地域的な特徴を把握しておけば、たとえば北陸で山陰の土器が出土した、というようなことから、当時の人々の交流のあり方も知ることができる。
つまり土器は、時間(縦軸)と空間(横軸)の両方の物差しになるわけですね。
チナ なあるほど。後世の人間にとって過去を知るのにとても便利なものになった、と。当時のひとはンなこと想像もしなかっただろうなあ。
サコ でしょうねえ。ところで、土器は器、つまりイレモノですが、ただモノをいれる容器ということであれば、籠やヒョウタン、動物の皮袋などでもよかったはずですよね。土器にしかできないことは、さてなんでしょう?
チナ うううん・・・そうか! 火にかけられる! がんがんと。
サコ うふふ、正解。液体を入れて加熱できるんです。土器は、「お鍋」なんですね。いまの台所でも、鍋やフライパンがなくて、網焼きの網とか鉄板焼きの鉄板しかなければ、扱える食材がずいぶん限定されますよね。旧石器時代の人々の台所は、そんなふうでした。焼くか蒸すことしかできない。
チナ 毎日バーベキュー。うへっ。
サコ そこへ縄文人は、お鍋を手に入れた。お鍋が必要だったんです。縄文時代は、地球が温暖化して、東日本には落葉樹、西日本には照葉樹の森が広がりました。そこには、ドングリがたくさん実ります。ドングリのようなデンプン質は、カロリーも高く、縄文人の主要な食料となりました。照葉樹のシイの実はアクがないのでそのままでも食べられますが、落葉樹のドングリはアクが強いので、アクを抜かないと食べられません。そのアク抜き(水さらしと加熱処理)に、土器が必要だったんです。ドングリだけでなく、キノコ、ワラビの根やクズの根などの根茎類、山菜の類も、豊富に生えるようになりましたが、やはり加熱処理をしないと食べられませんよね。それが土器で実現した。土器のおかげで、安定した食生活を送れるようになった。メニューは飛躍的に増え、栄養バランスも衛生状態も良くなったでしょうね。
チナ ありがたいねえ、私らも鍋で一杯やれるようにもなったし。
サコ ははははは。
チナ さて! ではいよいよ、ときめき土器メキキ、まずは縄文からいきましょう!
サコ わっ、やっぱ、やるンですか・・・えらいこっちゃ(汗)

(次回に続く)