第262回 先人たちも怒っているぞ

佐古和枝(在日山陰人)

こういう時こそ、おベンキョー!たしかに、こういう時だからこそ、脳ミソを冷やしておかないといけない。千夏さんはアイヌ、私はこの機会に、いままでサボっていた憲法のことや戦後の歴史などを復習しているところです。千夏さんお薦めのアイヌの本も、買いました。ベンキョーしなおします。

〜ということで、最近新聞や書物で目にとまった、ちょっとした話をいくつか。

◆エーブラハム・リンカーン第16代アメリカ合衆国大統領
「憲法の中の何ものにも手をつけてはならない。憲法は堅持しなければならない。なぜなら、それだけが我々の自由の守り手だからである。」
「我々人民は、議会に対しても裁判所に対しても、正統的なあるじの位置づけにある。そのような地位を我々が有するのは、憲法を覆すためではない。それは、憲法を汚そうとする者たちを打倒するためである」(毎日新聞 浜矩子氏コラムより)

アベ首相が憲法解釈を歪めてでも機嫌をとりたいアメリカ合衆国の、歴代大統領の評価で第一位のリンカーン大統領は、憲法を重んじろと言っている。リンカーンも、草場の陰で怒ってることだろう。

◆岸信介首相
岸信介は、A級戦犯被疑者として収監された巣鴨拘置所の中で「和書、訳書、英書など手当たりしだいに読破(中略)小説、評論、思想・哲学書、宗教書、歴史、戦略論、詩集、歌集等々万般にわたる」(原彬久『岸信介』岩波新書)デジケンズの『デイヴィッド・コパーフィールド』の1000頁に及ぶ英文原書を20日ほどで読み切ったそうだ。(毎日新聞 中森明夫氏コラム)

ふ〜ん、あの辣腕政治家は、これほど多様に文化系学問の素養の持ち主でもあったのか。しかし、その孫は、金の儲からない文化系学問に税金を使うのは如何なものかと言って、国立大学に文化系学部の撤廃または削減をつきつけた。
また、それほど英語が達者だった爺ちゃんは、1957年アメリカ議会下院で、首相として堂々と日本語で演説をした。戦後まだ12年しか経っていないのに、戦争のことには一切触れず、だからもちろん詫びもせず、民主主義国家を築くことへの決意と日米関係の重要性を語った。短い演説ながら、大きな拍手で6回も中断されるほど称賛されたそうだ。
一方その孫は、下手な発音の英語で演説をし、ギャグまで飛ばして得意げだった。英語の達者な国民以外は、自国の首相が外国の議会で何をしゃべったのかわからない。英語の達者な友人によると、英文は誰が読んでも理解できる完璧な表現だったが、内容はアメリカへのヨイショしかなかったと言っている。爺ちゃんのように、自分の国の民にも聞かせるよう、堂々と日本語で演説するべきだったでしょ。爺ちゃんは、草場の陰で孫の不出来を恥じ入っていることだろう。

◆田中正造
最後に、国会議員として日本初の公害訴訟といわれる足尾銅山鉱毒事件を告発した田中正造が1900(明治33)年 衆議院に提出した「亡国に至るをしらざればこれすなわち亡国の儀につき質問書」から。

「民を殺すは国家を殺すなり
法をないがしろにするは国家をないがしろにするなり
皆自ら毀つなり
財用をみだり民を殺し法を乱してしかして亡びざるの国なし これを如何」

田中正造が、憤怒のあまり、草場の陰から飛び出してきそうだ。