第250回 平和路線で「天下無敵」

佐古和枝(在日山陰人)

また新しい年が始まりました。その幕開けに、大変な事件。またイスラム武装勢力に、2人の日本人が拘束されて、1人は殺害されたとか。胸の潰れる思いです。

こういう事件が起きるたびに思い出すのが、われらが「おんな組」発足のきっかけとなった夜のことです。前にも書いたと思いますが、もう一度。
2004年4月、イラクの武装勢力がイラク戦争を後方支援する自衛隊の撤退を求めて、3人の日本人を誘拐しました。時の小泉首相は、自衛隊の撤退は断固拒否するという声明をだした。どうなることかとハラハラしましたが、イラク・イスラム聖職者協会の仲介もあって、3人とも無事に解放されました。

あの夜・・・っていつだったか覚えていませんが(;^ω^)、千夏さんとキョンナムさんと私と3人でその人質事件が話題となった時、キョンナムさんが「もし在日の私が誘拐されても、日本政府も韓国も、だ〜れも助けてくれないんだよね」とポツリと言った。「そんなことない。私たちがいるじゃない!」って、思わず千夏さんとサコは机を叩いて(かどうかは定かではないけれど)、必ず助けると約束した。そんなやりとりがきっかけになって、2004年9月に「おんな組」が生まれた。だから、組合員の肩書が「在日○○人」になったんですよね。

9.11事件の時、キョンちゃんは「もし犯人が北朝鮮人だったら・・・」と恐怖を感じたそうです。全然関係なくても、きっと在日コリアンへのバッシングが始まるって。いま、世界中のイスラム教徒の人達も、同じような肩身の狭さや恐怖を感じているでしょう。イスラム教が悪いわけじゃないのに。

こうしたテロリズムは、残虐非道・卑劣・許せない。断固抗議しなきゃいけない。だけれども、非難したり「断固抗議する」と声を荒げるだけでは何も解決しないだろうし、武力攻撃などで無理矢理抑えこんだところで、報復の連鎖を起こすだけ。肯定はできない、否定しても解決しない。だったら、どうすればいいのでしょう。
それは、もう一歩踏み込んで「どうして、こんなことをする人達が現われてしまったのか」を考え、その根っこを除去すること。これしかないのではないか。自爆テロや誘拐・殺戮の多発は、「大国の横暴」が彼の地の人々を蹂躙し続けた長い歴史のなかで、蓄積された憤怒や絶望が限界域を越え、暴走しているのでしょう。そこに本気でむきあわないと、こうしたテロ行為はなくならないのだろうと思います。

このことは、日本におけるヘイト・スピーチとも重なってみえてきます。非難・批判するだけでは、止められない。裁判で有罪判決がでたのに、止まらない。では、どうすればいいのか。それは、どうして、そんなことをする人達がこんなに多数生まれてしまったのかをきちんと考え、その原因を本気で除去する措置が必要である。そう教えてくれたのは、ヘイト・スピーチ撲滅にむけて奮闘する、「おんな組」のもう一人の代表世話人シン・スゴさんでした。「ヘイト・スピーチをしている人達も、救われなきゃいけない人達なんだ」と言うスゴちゃん、やっぱりスゴい人だと思いました。

今回の件で、ひとつの救いは「親切な日本人をなぜテロにまきこむのか」という在日イスラム教徒の方の言葉。そうだ。「天下無敵」というのは、どこに攻撃されても負けないほどの武力をもつことではなく、攻撃をしかけてくるような敵対勢力をつくらないことである。中東で、日本が比較的好意的に思われているのは、長年の平和・友好路線のおかげでしょう。今回こんな悲劇が起きてしまったけれど、平和・友好を大切にする国という基本姿勢は、間違っていなかった。どこの国、どんな勢力からも、「日本人はいいやつだから、攻撃しないでおこう」「日本は、“横暴な大国”ではなく、親切で善良な国だから、困らせないでおこう」と思われるような国になる!それが最大の防御である。安上がりだし(;^ω^)

武力より、平和友好路線。がんばろう、「おんな組」!ってことで、今年も、よろしくお願いします。