第240回 民主派考古学者マコリン先生

佐古和枝(在日山陰人)

前回、ちとリキんで長文を書いてしまいましたが、千夏さんにご賛同いただいて、ほっとしました。
千夏さんのいう民主主義の学者という言葉で思い浮かぶのは、妻木晩田遺跡の保存運動でたいへんお世話になった故佐原真先生です。戦後の弥生時代研究の基礎を築かれた学者の一人であり、アカデミズム路線での実績は山ほどおもちの先生ですが、そのうえで、考古学を市民にわかりやすく伝えなければならないと、徹して平易な言葉や比喩をお使いになりました。
さらに佐原先生は、考古学の講演のなかで、「君、死にたまふことなかれ!」と反戦・平和遵守を訴えたり、「原始女性は太陽であった!」と性差別を批判したりされました。考古学者としては変かもしれませんが(;^ω^)、人間としてきわめて純粋まっとうであり、考古学者としての社会的責務を果たさねばならぬという使命感をおもちでした。サコは、そういう佐原先生を心から尊敬しています。
また時には、講演会でいきなりオペラを歌いだし、「みなさん、いまの歌の名前をご存じですか?プッチーニ作曲の“誰も寝てはならぬ”という歌です(笑)」なんちゃってお茶目なことをなさる。学問のなかのユーモアや遊び心も大切にされました。
だから、いつも先生のまわりは明るく輝いていて、遺跡の保存運動中も、先生と電話でお話したり、ご尊顔を拝するだけで、ほっと気持がなごんだり勇気づけられたりしたものでした。

妻木晩田遺跡の保存が決まり、先生と手をとりあって喜んだのも束の間、先生はガンに侵され、余命いくばくという宣告を受けられました。それでも、保存された妻木晩田遺跡をちゃんと軌道に乗せねばということで、最期の最期まで講演会やシンポジウムにご登壇くださり、熱いメッセージを残してくださいました。
佐原先生のご命日が7月10日なので、私たちが毎月開催している市民講座「むきばんだやよい塾」の7月の講座は、「サハラ記念日」として、先生のご恩を偲んでいます。
今年は、妻木晩田遺跡保存決定15周年そして「むきばんだやよい塾」15周年なので、その記念イベントとして、7月12日(土)に、奈良文化財研究所で佐原先生と仲良しだった古代史の狩野久先生、考古学の工楽善通先生、そして佐原先生の奥様をお招きし、「サハラ記念日〜あの時、あの頃のこと」という公開座談会を開催しました。


狩野久先生、工楽善通先生、佐原夫人と妻木晩田遺跡にて(2014年7月12日)

この座談会でもっとも印象に残ったのは、工楽先生のお話で初めて知った若かりし頃の佐原先生の一面です。いまは国史跡に指定されている弥生時代の兵庫県田能遺跡は、昭和40年に工業用水園田配水場の建設工事中にみつかって、緊急調査がおこなわれた弥生時代の大集落と墓地です。なかでも、弥生時代で初めての確実な木棺墓やさまざまな形態のお墓、装身具を身に着けた人骨など、当時ほとんどわかっていなかった近畿地方のお墓の実態が明らかになり、注目を集めました。調査費が乏しかったので、学生や一般市民など多くの方がボランティアで手伝ったそうです。
遺跡は、調査が終わったら壊される予定だったのですが、市民の間で保存を求める運動が起きました。その時、なんと調査に関わっていた佐原先生も、みずから街頭に立ち、保存を訴え、署名集めをされたそうです。先生は33歳かな。そして翌41年、遺跡は重要な遺構・遺物がみつかった第4調査区を中心とした約5,200uが保存されることになりました。
佐原先生が街頭で署名活動!?このことは、奥様もご存じありませんでした。「だから、市民が手さぐりで始めた妻木晩田遺跡の保存運動に、あんなに親身になって応援してくださったんだ」とサコは改めて納得。佐原先生は、本当に市民と同じ目線にたって、一緒に悩み、一緒に怒り、一緒に喜んでくださいました。だから、うちの仲間達は、先生のこと、陰ではマコリンと呼んでいました。もちろん、敬愛を込めてね。

実は、佐原先生とともに妻木晩田遺跡保存の恩人のお一人である金関恕先生も、破壊寸前の山口県綾羅木郷遺跡で、ブルドーザーの前に立ちはだかって遺跡を守ったという武勇伝の持ち主です。学界きっての温厚なジェントルマンなのですが、やはり考古学徒の熱い血がたぎっておられるんですね。またわが師匠の故森浩一先生も、若かりし頃、開発側の集会に一人で乗り込んだりしてイタスケ古墳を守りぬいた話があります。いずれも昭和ヒトケタ生まれ。こんな野太さや情熱、使命感が、いまの学界にどれほど残っているのだろう・・・。時代が違う、と言われたらそうかもしれないけれど、それで片付けてはいけない気がします。

先生がご存命であったら、いまの安倍政権の動きに、憤りを爆発させておられたでしょうね。いや、こんな日本を先生に見せずに済んで、よかったのかもしれません。妻木晩田遺跡とともに、妻木晩田遺跡を守ってくださった佐原先生の魂も一緒に、大切に次世代に継承していきたいと思います。あぁ、マコリンに会いたいなぁ〜!


むきばんだやよい塾5周年記念シンポジウム「考古学今昔物語」にて(2001年)


むきばんだやよい塾15周年記念座談会「サハラ記念日〜あの時、あの頃のこと」
(2014年7月12日)