第222回 地球脱出計画

佐古和枝(在日山陰人)

普通に心ある行動をとる人が稀少生物になったから、フツーが“立派”に見える・・・この場合の“普通”とはわれわれ50代以上の者の常識であって、われわれにはトンデモナイ行動にみえることも、いまどきの若者たちの“フツー”だったりする。いったいこの先、人類社会の合意形成は、どうなっていくのでしょうね。

たとえば・・・

2100年の某月某日、某所で地球会議が開催された。議長は世界平和主義者連盟会長のチナチンスキー女史である。

チナ「えっへん。みなさん、お静かに。今日ここにお集りいただいたのは、地球がいよいよ末期的状況に陥ったためであります。このままみなさんが電気を使いたい放題で呑気に暮らしていたら、地球の石油はあと20年でなくなります。太陽光発電やら風力発電、バイオマスに地熱発電、シェールガスと、まぁ〜いろいろ努力はしましたが、結局どれも石油に代わるほどのエネルギーにはなりませんでした。

そんなことより、20世紀、21世紀の人々が期待した原発は、世界のあちこちで事故を起こし、大気も海も大地も放射能で汚染され、世界の人口は急激に減少しています。外出時には放射能防御服とマスクの着用が義務づけられていますが、過敏肌の人は着用できず、家でひきこもっています。肌をむきだしにし、マスクなど付けずに外で大アクビをしていた曾祖父・曾祖母の時代が羨ましい限りです。

さぁ、みなさん。このままでは人類だけでなく生き物の大半が絶滅します。いえ地球は、もう生き物が生きていけない星になってしまいます。どうしたらいいか、みなさんの意見を聞かせてください」

後期高齢者「わしら、もう先が短いから、どうでもええ。このまま快適に暮らして死にたいわい」

若者「こうなったのは、原発推進の動きを止められなかった、あんたらの責任だから、あんた達が責任をとるべきだ。50歳以上には電気を使わせない。昔みたいに薪をくべてメシ炊けよ。オレ達は責任ないから、電気は使いたい放題」

主婦「そんなの無理よ。パソコン制御の電子ジャーと電子レンジとIHクッキングヒーターと食器乾燥機がないと、食事は作れないわ」

若者「オレら、ケータイとネットとパソコンとゲームがないと生きていけないも〜ん」

ガシャ〜ン!!と会場から机が飛んできた。

チナ「こらこら、ちゃぶ台返しはやめてください。文句があれば、発言してください。机を投げたのは誰ですか?」

自然保護団体の会長さん「だから、原発はやめよう、エネルギーの浪費はやめようって、ずーっと言い続けてきたのに、みんな、他人事みたいな顔して、ち〜っとも聞いてくれなかった。私は、ず〜っと言い続けてきたのに。だから、言ったのに・・・嗚呼」

チナ「泣かないでください。気持はわかりますが、私たちに残された時間は少ないのです。泣いてる場合じゃない!」

サコリンスカヤ「はい!提案です。」

チナ「どうぞ」

サコ「残りの20年で、世界中の石油とお金を使い果たしましょう」

チナ「ええっ? 思い切り遊んで滅びようっての?まま、そこまで自暴自棄にならないで冷静に、冷静に」

サコ「いえ、そうではありません。残りの20年間、世界中の石油とお金を全部使い果たすくらいにつぎこんで、地球以外の惑星に移住する技術を開発して、移住するんです」

チナ「地球を捨てるんですか?」

サコ「はい、もう仕方ないでしょう」

チナ「だけど、地球の人類全員を運べるわけ、ないし・・・」

サコ「人類存続のために、とりあえず一部の人達だけでも」

若者「だったら、年寄りを残しても仕方ないから、若者優先だな」

後期高齢者「なにを言うか。年寄りの知恵こそ、次世代に伝えるべきなんじゃ」

会社員「いや、働き盛りの現役サラリーマン世代だ」

少女「なに言ってんのぉ〜。電車のなかで携帯ゲームをやったり、少年マンガを読んでるのは、若者よりもサラリーマンよぉ〜。オトナのくせに、みっともなぁ〜い」

会社員「会社で必死に仕事して家族を養ってるんだから、電車のなかくらい自由にさせろ!」

主婦「平等にくじ引きにしましょうよ」

若者「移住者選びで、絶対に世界戦争が起きるぞ。強い国の連中だけが生き残るんだ」

会社員「いや、あんがい世界平和になるかもしれない。だって、人類の存亡がかかってるんだから、どこかの国が抜け駆けしようとしたら、世界中の国から袋叩きにあうもんな」

自然保護団体の会長さん「人類だけですか? 他の生き物だって、連れていかなきゃ」

動物たち「そ〜だ、そ〜だ。そもそも人間は、他の生き物にとって迷惑なものばかり作ってきた。その責任をとって人類は地球に残り、人類以外の生き物や植物を救うべきだ」

チナ「こら、サコリンスカヤめ。あんたがややこしいこと、言いだすから、収拾がつかなくなったじゃない!」

サコ「すんまへん」