第143回本編 ■ただいまっ■

中山千夏(在日伊豆半島人)

無事もどってまいりましたっ!
往路と同じく25時間「おがさわら丸」に乗って。
ちゃんと投票日には間に合いましたよ。

東京都小笠原村ことボニンも、もちろん参院選選挙運動の時期。といっても、静かにポスター掲示板が立っているだけ。すがすがしいものでした。

さて、ボニンの海がどのくらい清浄かは、この写真を見ればわかる。


ここはとびうお桟橋といって、漁船やクルーザーが停泊している町なかのただの港。そこでさえこんなに澄み渡っていて、眺めているとアオリイカの子だのオヤビッチャだのがよく見える。今年は、ごらんのとおりホワイトチップ(サメの一種)までゆらゆらいたので、びっくりした。陸からサメの写真撮れる桟橋なんて、まず日本では珍しいでしょ。

イルカにもよく遊んでもらいました。

これはシュノーケリングで写したんだけど、潛っている最中にもよく私たちを見にくるの。

ボニンのシンボル、アオウミガメ。
砂浜には産卵のあとがたくさん。

今年はでっかいカンパチの群を間近に見ることができて、感動した。ダイバーをものともせず、すぐ目の前を回遊する。カンパチの後ろに写っているのはクマザサハナムロの大群。

内地でもニュースになっていたらしいけれど、ボニンは今、世界自然遺産に推薦されていて、実は私と同じ船でその調査のためにふたりのオーストラリア人が乗り込んできた。小笠原村としては大乗り気なんだけど、島民は歓迎半分(景気よくなりそうだからね)、迷惑半分(いろいろ規制されて生活が不自由になるからね)といったところ。

増えすぎて草を喰い尽くす勢いだった野良ヤギ(もとはひとが持ち込んだもの)も、ずいぶん減った。これも世界自然遺産登録を目指す努力の成果。


それでもまだ父島では、生き残りがたくましく崖にとりついているのを何回か見た。

珍しい固有種が一番残っているというここ南島も、上陸規制が一段と厳しくなった。自然遺産になったら、たぶん、上陸禁止になっちゃうんじゃないかな。手前に生えているのはクサトベラという美しい灌木。

その葉を穴だらけにして、こういう虫が繁殖に精出している。害虫? いやいや、これぞヒゲナガゾウムシとかなんとかいう貴重な固有種なんだって! 今やボニンでも南島にしかいないので、学者先生たち、大事に大事にしているそうな。

でも、島民はたぶん、こちらのほうが好きだね。

一抱えあるセミエビ。
とある島民に言わせると、イセエビよりおいしいんだって。

タコにもたくさん出会ったよ。
これは大きなワモンダコ。

なるほど、予言者面だ。ボニンでもサッカーは話題になっていた。私はぜんぜん興味ないけど、帰ってきた日に、ドイツの予言ダコの話聞いて、これには感ずるところが多々あったなあ。
まず、予知とか予言とか千里眼とかは、タコでもやれる、という事実が感動的ね。これを、タコにも霊感がある! と考えるか、偶然はしばしば奇跡に見える、と考えるかは、ひとそれぞれだろうけれど。

タコの予言どおり負けたドイツなんかのひとたちが、「あんなタコ、パエリアにして食っちまえ!」と怒り、水族館がマジで警備を考えるほどの騒ぎになっている、と新聞で読んで、すぐにジサイを思い出した。
古代倭人は、船にジサイと呼ぶシャーマンを乗せて連れて行き、船が災難にあうとそのシャーマンを殺したんだってね、当時の中国の歴史書、魏志倭人伝によると。
まるで変わらないじゃん! まだジサイのほうは、神への祈りが足りなかった、という責任があるかもしれないけれど、タコのほうは勝敗を祈って貝を食べたわけじゃないっしょ。与えられた貝を気の向くままに食べただけでしょ。それをおもしろがって予言に見立てた人間に当たるならともかく、なんの責任も他意もない軟体動物を責めるなんて、めちゃくちゃでしょうが。
そういう初歩の道理もわからないファンがいっぱいいる競技は、やっぱ、わたしゃきらいじゃ。