第126回 ■ワサビか、カラシか■

佐古和枝(在日山陰人)

え〜、寿司にカラシですかぁ?(;O;) いろんな食文化があるんですね。ワサビがカラシになったのか、カラシがワサビになったのか。う〜ん、これは考古学の辞書には載ってない話です(/_;) 
古代の香辛野菜的なものを文献で探してみると・・・魏志倭人伝によれば、「(倭には)ショウガ・橘・山椒・ミョウガがあるけれど、倭人はそれらを用いて調味したときの美味さを知らない」とあります。ワサビやカラシはでてきません。

奈良時代(8世紀)の律令の「僧尼令」に、僧尼が食べることを禁じた「五辛」がありますが、これは、ニンニク・ネギ・アサツキ・メヒル・ショウガとされています。ワサビもカラシも、入っていません。
でも『万葉集』には、ワサビもカラシも登場しています。ワサビは『播磨国風土記』にも出てきますが、ただ「生えている」というだけ。律令の「賦役令」にも登場し、税の品でもあったことがわかりますが、食べ方はわからない。ただ、平安時代の『和名抄』には、ワサビを「山葵」と書いているから、葉っぱを食べていたもので、根を香辛料として使うようになったのは後の時代のことだろうとされています。
一方、カラシは「辛菜」と「辛子」の両方があるので、葉っぱも実も使っていたようです。ただし、どんなふうに食べていたかは、これまたよくわかりません。

魚の調理方法は、いろいろです。「_(きたひ)」=小魚の干物、「膾(なます)」=大きな魚を薄切りにした干物、「楚割(すわり)」=大きな魚を細長く割いた塩干、などなど。スシという言葉は、「酢押し」からきたという説もありますが、本当かどうか、知りませんよ(^_^;) 本来、「鮓」=塩とコメで魚を発酵させたもの、「鮨」=魚醤、なのですが、平安時代には両者混用されているようです(廣野卓『食の万葉集』より)。
「鮓」の代表選手は、滋賀県のフナずし!いわゆる、なれずしです。最近、ブラックバスのせいで、琵琶湖のフナが捕れなくなって、フナずしはびっくりするほど高価です。フナずし大好きのサコは、悲しい。
なれずしは、東アジアの稲作漁撈文化に共通するなま魚の保存食で、中国雲南省の少数民族やタイ、ベトナムなどにもあります。わが国では、平安時代から記録に出てきます。発酵の期間を短くし、酸っぱいコメも一緒に食べる「生なれ(半なれ)」は室町時代から。

そして江戸時代に「酢」が開発されて、コメに酢をまぜて簡単に酸っぱくしてしまう握り寿司の登場です。もとは、道端の屋台で食べるファーストフード。魚市場で売れないような魚を利用した、庶民的な食べ物だったようです。東京湾でとれる魚や貝を使っていたから「江戸前寿司」と呼ばれるようになったといわれています。
島寿司は、漬けた魚を使うから、魚の保存食の路線ですよね。なま魚をそのまま使う江戸前寿司とは、ルーツが異なるのではないかとサコは思います。

んで、ワサビが先か、カラシが先かって?う〜む、わかりません(:_;) ただ、寿司のワサビは、香辛料であると同時に、なまの魚の殺菌・消毒効果もあり、食中毒を防ぐといわれますよね。カラシには、殺菌効果ってあるのかなぁ。やっぱり、島ではワサビが生えなかったから、代用品としてカラシや青とうがらしを使うようになったのではないかという、ちっともおもしろくないことしか言えないサコです。ご寛恕を!


わさび田