第118回 ■メディアが伝えること、伝えないこと■

佐古和枝(在日山陰人)

インフルエンザの国内感染者は増え続け1000人を越えたそうですが、もうニュースでもほとんど言わなくなりましたね。あの騒動が遠い昔話のような気さえします。日本人の得意技、「喉元過ぎるとすぐに忘れる&自分に直接関わらないことには無関心」 悲しいかな、どちらも身に覚えあり、です。

昨秋、インドで仏教の布教に携わり、44年ぶりに一時帰国した佐々井秀嶺師のことがマスコミでも話題になりました。といっても、私はつい先日、知人から教えてもらったのですが。
インドにカースト制があることは知っていましたが、インドに一度も行ったことがない私は、いまインドといえばIT産業で急成長している国という印象が強く、3000年も昔にできたカースト制が(憲法では廃止されているものの)いまなお根深く続いていることに思いが至っていませんでした。

カースト制による差別がそんなに壮絶悲惨だということも、それを撤廃しようと奮闘した不可触民出身の初代法務大臣アンベードカルというものすごい偉人のことも、不可触民の父とも称えられるマハトマ・ガンジー首相がカースト制度の廃止に強硬に反対してアンベードカルを苛めたということも、またいまのインドにそんなスゴイ日本人がいるということも、今回の佐々井師の帰国がなければ、ほとんどの日本人は知らなかったのではないでしょうか。(詳しく知りたい人は、『不可触民と現代インド』(山際素夫著)を読んでください。)

世の中には、知らないこと、気づいてないことがたくさんある。そんな当たり前のことを改めて痛感しました。私の不勉強は棚にあげておくとして(^_^;)、昔から、文字やメディア媒体は有力者が牛耳るから、弱者や少数派の声はなかなか伝えてくれない。それは歴史学徒に必要な認識なのですが、日常的にはやっぱりマスコミ報道に翻弄されるよなぁと、インフルエンザ騒動で再確認しました。

んで、考古学の記事にみなさんが翻弄されないように、ここで弱者のひと声を!先月、関西では、「箸墓は卑弥呼の墓で確定か」という大きな記事が一面トップに載りました。放射性炭素による年代測定で、弥生時代の始まりが500年古くなると物議をかもした、あの某国立博物館の研究チームです。
趣旨の概略は〜箸墓古墳で出土した土器に付着した炭化物を分析したら240〜260年とでた。それは卑弥呼の没年と重なる。この時期、箸墓古墳は列島最大の古墳である。だから、卑弥呼の墓であることが確定的になった、とのことです。なんともはや・・・((+_+))
放射性炭素による年代分析は、資料の状態に結果が影響を受けるし、誤差もあり、まだまだ慎重に向き合わねばなりません。仮に箸墓の築造年代が正しいとしても、卑弥呼の墓が列島最大規模だなんて、どこにも根拠のない話です。歴史復元の方法があまりにもお粗末で、唖然としました。

報道の2日後に学界でおこなわれた研究発表の会場は、疑問や批判が相次いで殺気立ちました(^_^;) でも、そんなことは、あまり伝わっていませんよね。弥生時代の始まりの時も同様で、学界の議論を経ないままの一方的な報道発表が大きく扱われ、あたかもそれが確定的な事実であるかのように多くの読者の記憶に残ってしまった。
うむむ、何をどう伝えるか・・・伝えるって難しいことですね。千夏さんの言うように、同じ情報でも、人によって受け止め方も異なるし。でも、しょうがない。マスコミとはそんなもんだと割り切って、だからなおさらアンベードカルのようにせっせとあちこちで話をしたり、弱者の味方「おんな組」HPの場を借りて、地道に自分で伝えていこうと思うサコでした。

箸墓と三輪山