第117回 ■同世代の異体験■

中山千夏(在日伊豆半島人)

むむむ、いろいろ考えちゃうなあ。
真っ先に思うのは、同じ時代、同じ事件にまきこまれていても、地域差は大きいってこと。
少なくとも伊東近辺では、マスク族、そんなに見かけない。最近、何日か、電車で東京との間を往復したけれど、さほどでもなかった。テレビ見て、関西は大変みたい、と思っていたところ、サコせんせのお話で、やっぱり、と。

地域差とか地位差とかについて、なるほどと思ったのは、国会で中曽根(当時総理大臣)さんを身近に見た時ね。それまでは漠然と、戦争体験はみな同じ、と思ってた。中曽根さんを近くで見て、なんで戦争体験世代なのに、戦争好きなんだろ、と考えた。で、出た結論が、同じ体験でもその時の地域と地位によって、異なるってこと。戦争でいい気持を味わった地域や地位もあったのだ、ということ。彼らにとって戦争はイヤなことではないのだ、もしかしたら懐かしいのだ、ということ。

以来、大きな事件があると、決まってそのことを考える。地震がいちばんいい例かな。地元の地震とよその地震では、体験がまるで違うものね。マスコミの取り上げかたも、主要都市か片田舎かで違うしね。

そうそう、先週、仙台で全国植物園協会の総会というのがあって、基調講演してきた。(理事のひとりの植物学者が飲み友だちで、私の植物好きを知っていた、というだけのキッカケなんだけど)。
講演後の交流パーティで、マスクが話題になってたよ。司会の理事いわく「マスクを用意してあります。ご希望がありましたら申し出てください」。なんと、300用意したんだって。会場のホテルが申し出て、手配したらしい。街には払底しているんだって。そのパーティでは、みんなそれを聞いて笑っておしまいだった。

その何日かあと、吉祥寺で開かれた自費出版文化賞の選考会に来ていた大阪の編集者は、「ぜんぜん雰囲気が違う」と言ってた。大阪はシャッター商店街が増えたりして、雰囲気もぴりぴりしていて笑いごとではないらしいね。アルゼンチンなど外国では暴動がおきたところもあるし。

私はトシマだし風邪気味でもないので、マスクはしないで暮らしてます。別に白い目で見られることはない。けれど、そうしにくい雰囲気ができている地域がある、というのには、恐さを感じるね。新型インフルもさることながら、なにかをキッカケに排他的になる人間性、それが恐い。おお恐い。