第90回 ■変わりゆく考古学界■

佐古和枝(在日山陰人)

考古学の集まりがオトコばっかりでビックリしましたか? ですよね。以前、イギリスから著名な考古学者のご夫婦が来日され、歓迎パーティーをした時も、奥さんが「なんで、女性がいないの?」と尋ねられ、返答に困ったことがあります。奥さんも、大学で考古学を教える教授でした。
外国の考古学者は、発掘現場を監督するだけで、肉体労働はしないんです。学者が肉体労働をするなんて、あり得ない!らしいです(^_^;) だから、女性も多いのだと思います。日本では伝統的に、研究者といえども汗水流して土を掘るのが当たり前ですから、「男の世界」になったのでしょう。さらに、ひと昔前の発掘現場といえば、夜な夜な酒飲みながら先輩たちの考古学談義につきあわされたり、スコップでどこまで土を投げ飛ばせるかみたいな職人的技の競い合いがあり、それが「男の世界」的雰囲気をさらに濃厚にしていた。そのためか、日本の大学で考古学を教えている教員となると、たしかに女性は数名かもしれません。

しかし日本も、事情が変わってきています。日本の発掘調査の9割を超える行政発掘(開発に伴う発掘)では効率化のために外国のような分業が進み、考古学の専門職である発掘担当者は監督するのみで、土を掘ったり図面をとったりの作業は作業員さん達がおこなっています。調査方法もPCを駆使し、デジタル化が進み、もはや「この腕一本」の職人技は昔話になりつつあります。そのせいか、女性の発掘担当者は、もはや珍しくないほど多いのです。最近の若い人達はクールだから、昔みたいな無茶な酒飲みや説教臭い話は敬遠されますしね(^_^;) 女性研究者も増えてくると思います。
反面、一緒に発掘をしても「同じ釜の飯を食った」という濃厚な仲間意識は希薄になっているように見受けます。捏造というのは、きわめて異例な出来事だと思いたいのですが、古き良き時代の仲間意識が発覚を遅らせたのかもしれませんね。そういう意味では、今のクールさもいいのかもしれないけれど、開発に伴い、遺跡を破壊することを前提とした行政発掘が当たり前になってしまい、「遺跡はできるだけ掘らないで残しておくべきだ」という考古学の鉄則までもが昔話になっているようで、古い時代に育った浪花節考古学徒のサコは一抹の不安を覚えています。


熊本県本目遺跡の発掘現場風景