第64回「横断歩道で

山元加津子(在日石川人)

 学校へ行く道の途中の横断歩道で、「町の子ども達応援隊」という文字がついている蛍光色のミドリのカッパに、身体をつつんだお年寄りの方が、黄色い旗を持って、毎日のように立っておられるのです。今日も、同じ場所で、ちょうど信号が黄色から赤になって、私の車が止まっていると、小学生の子供さんがかけてきて、おじいさんとにこにことおしゃべりをして、おじいさんも腰をまげて、男の子の顔をのぞきこみ、笑いかけていて、やがて目の前の信号が変わり、男の子がおじいさんに、手を振って横断歩道を渡っていくのが見えました。

 私は亡くなった父のことを思い出していました。父も亡くなる何日か前まで、当番の日は雨が降っても、雪が降っても、小学校の近くの横断歩道で安全指導のボランティアをさせていただいていたのです。
 父はそれがきっと毎日をおくることのはげみのひとつだったのだと思います。「子ども達が、大きな声でおはようと言ってくれるんだよ。ありがとうって言って渡っていくんだよ」とよく子ども達の話をしてくれたし、子ども達からいただいた、色紙や折り紙などのプレゼントをとても大切に飾っていました。
 安全指導の日は、月曜日から金曜日まで・・私の働いている日と重なります。だから、私は父が、安全指導をしている姿を見たことはありませんでした。けれど、今目の前のおじいさんがうれしそうに手を振っている姿を見て、ああ、父もきっと同じように、「さあ、元気で行ってくるんだよ」とうれしく手を振っていたのだろうなあと、目の前のおじいさんが父と重なるような気持ちがしました。

 している内容が、たとえ、ボランティアという名前であっても、どちらかが一方的にしてもらうばかりだったり、あるいは逆にしてあげるばかりということは決してないのでしょうね。どんなことも、きっとそれはお互いに必要で、お互いが持ちつ、持たれつなのかもしれません。
 いつしか、おじいさんと子ども達の様子を見るのが、私の毎日の楽しみになりました。優しい風景は見ている人にとっても、多くのプレゼントをいただいたような気持ちがするものなのかもしれません。