第59回「タオルの置き場所」

山元加津子(在日石川人)

 給食がもうすぐ始まりそうになっていて、みんなテーブルの真ん中に用意されたお皿を自分のところに並べたりしていたときでした。かずきくんはもう自分のお皿やお椀を全部並べ終わっていました。首にかけていた汗ふきタオルがじゃまになったのでしょう。まだ配膳がおわっていないゆいちゃんのテーブルに、自分のタオルを置きました。
「かずきくん、ここはゆいちゃんのテーブルだから置かないでね。どうにか自分のところに置いてね」私が声をかけると、かずきくんは「俺のとこは置くところないから、だめや」とちょっと怒って言いました。
「ダメだよ、ここは今からゆいちゃんがごはんを置くところだもの。自分のものは自分のところに置くんだよ」
 今度はかずきくんは、「何いうてるのや。俺のタオル置くところないから仕方ないやろ」
 そうなのです。かずきくんにはかずきくんの譲れない気持ちがあるのです。そして理由もあるのです。でも、私には私の譲れない気持ちもあるのでした。今度はかずきくんはゆいちゃんに声をかけました。

「な、いいやろ、俺の置くとこないんやもん」クラスのみんなはかずきくんも含めて、みんなとっても優しいので、「いいよ」と言うかもしれないけど、きかんぼうで、頑固者の私はそれではいやなのです。「かずきくん、ゆいちゃんがいいと言っても、誰がいいと言っても、自分のものは自分のところに置いてほしい。レストランに行ったときに、他のお客さんのところに、かずきくんはタオルを置かないでしょう?いつも自分のところに置こうね」
 かずきくんは「俺とゆいちゃんの問題や。関係ないよ。それにここはレストランじゃない」
 なるほど、かずきくんの気持ちの中で、ちゃんと論理だっていて、だからこそ譲れない一線なのですね。そして、私には私の譲れない一線。

 どうしようかなと思ったときに、近くにいた先生が声をかけてくれました。
「かずき、机の横にかけたらどうや」そして、かずきくんは、あ、そうか、そうだなと思って、そうしてくれたのでした。その上、食事が始まってしばらくしてから、かずきくんは、「さっきのことやけど、ごめんな」と言ってくれました。
「ああ、ありがとう、かずきくん、素敵、だから好き」そんなことを言いながら、私は自分の気持ちを少しも曲げなかったことに、ちょっと後味の悪さを感じていました。もっと違う自分の思いの伝え方はなかったのだろうか?かずきくんはちゃんとごめんねと言ってくれたのに、私はかずきくんに誠実に向き合うことができていただろうかともう一度自分を振り返る夜になりました。