心なごみませ  第40回

「気持ちは自分のものやけど   
    自分の自由にはならないね」

山元加津子(在日石川人)

 ちーちゃんはすごく元気なときと、なんだか元気がなくてだるそうなときが、だいたい月の半分ずつくらい交代なのです。
 笑って元気なときのちーちゃんは、歌を歌うのが大好きで、きれいな声でいろんな歌を歌ってくれます。走るのも大好きで、ダンスも大好き。私たちもそうですが、そんな楽しくて可愛いちーちゃんに惹かれて、他のクラスのお子さんもちーちゃんの周りにきてくれます。お隣のクラスのまーくんも、「ちーちゃん、ちーちゃん」とやさしく声をかけて、気を配ってくれます。一馬君も「ちー、元気やなあ。俺、そんなちー見てると、元気出てくるわ」と言います。
 元気のないちーちゃんは、ちょっとだるそうで、机に顔を伏してしまうこともあります。でも、そんなちーちゃんがいとおしくて、また、いろんな人がちーちゃんのそばにいます。元気がないとき、まーくんはやっぱりそばに来てくれて「ちーちゃん、大丈夫か」と声をかけてくれます。それから一馬君も、「体ひどいんか。無理するなや」と言います。そんなとき、ちーちゃんは顔をあげて、うれしそうににっこり笑うのです。

 このあいだ、一馬君がすごく素敵なことを言いました。
「俺な、ちー見てわかるんやけど、気持ちって、その人のもんやけど、その人の自由にはならんもんやな。なんか楽しくなったり、なんか悲しくなったり、なんか、うれしくなったり、つらくなったり、かっとしたりするやろう。それって、自分ではどうしようもできんのや。自分で好き勝手に気持ちって変えられん。それは、そういうふうにできとるちゅうか、そうなっとるんやって。な。それは他の人がどうこう文句の言えることじゃない。俺だってそうやもん。みんな受けとめて、そしてみんな一生懸命なんや、な」
 本当にそうですね。元気でいたいのに、優しい自分でいたいのに、穏やかにいたいのに、ちっとも私の言うことを聞いてくれない、自分の気持ち。でも、だからこそ、いとおしかったり、だからこそ、周りの人のことも、思いやることができるんだと、一馬君は教えてくれたように思います。そしてたぶん、一馬君だけでなく、まーくんも、そんなふうに思っているからこそ、ちーちゃんにも誰にもすごく優しいんだと思います。