心なごみませ  第37回

「しっぽみたいに」

山元加津子(在日石川人)

 「まぐまぐ」といって無料でたくさんのメールアドレスに情報の配信をしてくださるシステムがあります。

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「・・・しっぽになれたら・・・
しっぽみたいに あなたといつも 
つながっていられたらいいのにと いつも思うの
きれいな虹を見つけたら、大きなお月様が見えたから
あなたにお話したくなる
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まぐまぐにて日刊で発行いたします。
携帯電話へもお届けできます」

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 ホームページの一ページに、こんな文章を載せて、私もまぐまぐで詩というか、独り言というか、そういう短い言葉の配信を毎日させていただこうと思いました。
 それが5年くらい前の、3月28日のことでした。
 4月に入ってしばらく立った頃、典ちゃんという女の子からメールをいただきました。

 「私は学校へ行くのがつらくてたまらない。これといった理由はないけれど、学校へ行く時間になると、休みたいなという考えが頭をもたげて、そのうち身体の調子が悪くなるの。どうして毎日毎日、学校へ行かなくてはいけないんだろう。毎日続けるということはどんなことでも、私にとっては簡単なことじゃないと思うの。
 そんなときにまぐまぐのホームページで "しっぽみたいに" のことを知りました。日刊と書いてあったけれど、毎日本当に届くのだろうか?と思いました。それから「しっぽみたいにあなたとつながっていられたらいい・・」という文章にはっとして、"しっぽみたいに" をとらせていただくことにしたの。本当に携帯電話に毎朝、あなたの"しっぽみたいに"が届きました。毎朝大変じゃないのだろうかと思いました。そう思ったときに、「よおし、"しっぽみたいに" が届いた日は学校に行こう、"しっぽみたいに" がお休みの日は私も休んでいいことにしようと決めました。そのおかげで、もう1週間も休まず学校へ行っています」

 典ちゃんのメールはとてもうれしかったけれど、おっちょこちょいな私です。しっぽみたいにの配信の手続きがうまくいかないで、配信がお休みになったらどうしよう…私の気持ちがちゃんと文章にならなくて、配信できない日があったらどうしようとすごく心配になりました。私のせいで典ちゃんが学校をお休みすることになったらなんて申し訳のないことだろうと思うと、ちょっとプレッシャーのようにも感じたりしました。もうひとつ私が心配だったのは、典ちゃんの他にも「しっぽみたいに」を毎日見てくださっている方が、350名を越えているとある日わかったことでした。自分で始めたことなのに、「しっぽ見たいに」はつまらなくはないかしら?ご迷惑にはなってないかしら?10人だろうと380人だろうと、もちろん言葉を考えるときの気持ちは変わらないけれど、本当にそれでいいのかなと心配でたまらなかったのです。

 「しっぽみたいに」は時間を予約して配信していただけるシステムです。携帯にも配信させていただいているので、お仕事中に着信音が鳴ってご迷惑をおかけしちゃいけないなあと思って、多くのお仕事場の始まる時間少し前に配信していただけるように、8時ちょうどにいつも配信の予約をしています。
 朝の8時は典ちゃんがちょうど学校の用意をし出す時間だそうです。8時に届いたのを確認して制服を着るのよと典ちゃんが教えてくれました。
 ところがまぐまぐのシステムの都合で、予約時間が少し遅れてしまうことがあるようなのです。時々配信が8時10分とか20分とか、ときにはもっと送れてしまうことがあります。私は自分の携帯にもメールの配信を登録してあるので、そんなときには気が気じゃありません。典ちゃんはどんな気持ちでいるだろうって思います。そんな日に典ちゃんからの私の携帯にメールがとどきました。
「しっぽみたいにがこないよお。もう2週間も休んでないんだよ。ね、送ってよ。待ってるから」

 その日の「しっぽみたいに」を思い出して、急いで典ちゃんの携帯に直接「しっぽみたいに」のメールを送りました。
 その夜典ちゃんがまたメールをくれました。
 「"しっぽみたいに" ありがとう。今日ね、8時25分になっても届かないから、制服に着替えて、携帯ばっか見つめていたよ。どうしてくれるの?もう2週間も休まずがんばってきたのにって思って、がまんできずに「送ってよ」ってメールしたらね、なあんだ。私、本当は学校に行きたいんじゃんってわかったの。でもね、まだ自信がない。やっぱ私には「しっぽみたいに」の応援がすごく必要なんだよ。でもね、本当は行きたいんだってわかったのがすごくうれしかった」

 私もとてもうれしかったです。そして私はお返事にこう書きました。
 「私ね。最初ね、本当言うと、私の "しっぽみたいに" で学校に行ったり行かなかったりするってすごく責任重大だなあ・・困ったなあって思っていたの。でもね、だんだんと "しっぽみたいに" のむこうには典ちゃんがいてくれる、それから他にもきっと待っていてくれる人がいてくれるって思ったら、たとえ、なかなかその日の自分の気持ちを上手に文章にできていないんじゃないかって思って、配信の勇気が出なくても、ありのままの気持ちを送らせてもらったらそれでいいんだって思ってすごく勇気が出たの。典ちゃんのおかげだよ。私ね、今日の典ちゃんのメールでひとつすごく大切なことに気がついたの。人はみんなやっぱり応援してくれる人や、応援してくれるものがないとがんばれないんだよ。私は典ちゃんが応援してくれて、"しっぽみたいに" をがんばれるし、典ちゃんは "しっぽみたいに" の応援が必要だよって言ってくれる。みんなそうなんだよね」

 典ちゃんはこのあいだこんなメールをくれました。
 「元気? 聞いて、もう一ヶ月続けて学校行ってるんだよ。友達ができたとかそういうことよりね、なんか私自分に少し自信が持ててきたの。やればできることもあるって思った。なんかね、学校へ行くとか行かないとかそういうことじゃなくて、がんばれた自分を誉めたい気持ちなの。それから私もね、"しっぽみたいに" みたいにね、なんか始めてみようと思うんだ」
 私も "しっぽみたいに" を始められてよかったなと思いました。何かしたいなあとか、こんなことしてみたいなとか、いろいろな思いがあっても、始めることはとても勇気がいるけど、始めなければ始まらないし、私は典ちゃんと出会えなかったし、典ちゃんが教えてくれたことにも気がつけなかったとそう思うからです。