心なごみませ  第32回

「なっちゃんの不安」

山元加津子(在日石川人)

 入学式の朝、高等部の玄関で、大きな声で怒っている女の子がいました。
「こんなすごいことする子、見たことないか?こんな子、誰も、好きにならんか?おとっろっしゃー、こんな子、誰も学校入れてくれんか?こんな子誰も置いてくれんか?こんな子警察行かんなんか?」声は高等部の入学考査のとき一緒だったなっちゃんのものでした。
 なっちゃんは 入学考査のときにお父さんとお母さんと一緒でした。お二人ともなっちゃんのことをとても可愛がっておられることがお二人の様子からよくわかりました。うかがえば、なっちゃんは昔一度でも聞いたことは決して忘れられないのだということ。今まで出会った先生もみんななっちゃんのことを可愛がっておられたとのこと。いつ、誰がそんなふうなことを言ったのかわからないのだということ。そしてなっちゃんは不安になると、そういうふうにつらかったときの言葉がどんどん停まらずに飛び出すのだということ。 入学式のなっちゃんは、とても不安そうでした。そして、おうちの方がおっしゃっておられたように、停まらずに今まで言われたつらいことを言い続けていました。
 私たち大人や教員は、こどもたちにとっては、やはり、怖い存在なんだと思います。どんなに気をつけていても、いつしか傲慢になって、こどもたちの上に立った物言いをしてしまっているんだと思いました。
 そのなっちゃんが少し気持ちが落ち着いたころでした。廊下で出会った私に、「この人の顔、やわらかそうやん」と言ってくれました。そのことばはうれしかったけれど、けれど、こどもたちは、この出会いの時期に、この人は私の味方だろうか?それとも自分を攻撃する人だろうかと、そのことを一生懸命見極めようとしているのかもしれないと思いました。たまたま、今日は私、おだやかな顔をしていられたかもしれないけれど、私はすぐに傲慢になってこどもたちにつらい思いをさせてしまう。
 新しいこどもたちと出会い、初めての関係を作っていく今年。どれだけこどもたちと同じところに立って、こどもたちと一緒にいられるか、そのことが大切なんだということを、今年は、何度も何度も自分に言い聞かせていたいと思いました。